チーズ、うさぎ、野菜に魚介類…地中海で交差する食文化こそマルタの“ママの味”
「翼の王国」2025年5月号マルタ特集では、マルタが文化、料理、音楽、才能などが交わる場所であるという「CROSSING」をテーマに取材を行いました。

特に近年、マルタでは料理に注力しており、これまであまり知られてこなかったマルタ料理の魅力をアピールし始めています。とはいえ、日本人にとっては「マルタ料理?なにそれ。何があるの?」というのが正直なところ。

そこで、マルタで最初の5つ星ホテル Phoenicia Hotel 内のレストラン Contessa のシェフ、マルタ生まれマルタ育ちのダニエル・デバッティスタ氏に、マルタ料理の魅力や、マルタと世界の食文化の繋がりについて語ってもらいました。


― マルタ料理の歴史は非常に長く、さまざまな文化の影響を受けてきたと聞きます。マルタ料理のルーツに、どのように文化が影響を与えたのか、具体的な例を交えて教えていただけますか?
ダニエル(敬称略):
マルタには過去の歴史から、さまざまな文化が混ざり合っています。それは料理にも同じことが言えます。各文化の影響を受け、フレーバーが混ざり合いながら活かされているのです。もともとマルタは貧しい農民の島でした。だから食事も、農民が食べるシンプルなものがメインだったのです。


―現代のマルタ料理の特徴を教えて下さい
ダニエル:地中海料理をベースにしながらも、イタリアとフランスの影響が大きいですね。そこに、この島でたくさん採れるオリーブオイル、シトラス、レモン、ペッパーといった食材を使った料理が増えてきました。それらの料理の多くには現代的でモダンな解釈も入っていますが、古いものは伝統としてちゃんと残しているのがマルタ料理です。
単に新しいものを目指すのではなく、マルタの伝統料理を反映させながら、現代的なテイストも取り入れているのです。
かつて島の農民たちが食べていたシンプルな料理をルーツに、今では収穫が可能になったマルタの農産物を取り入れて、現代的な料理へと進化させています。
マルタは小さな島なので、他の国の影響を受けやすいのは今も変わりません。しかし、なるべく地域の食材を使って発展させていくことが大切だと考えています。


― シンプルな農民料理がルーツとのことですが、マルタの「ママの味」とは?
ダニエル:農民料理ですから、それはもう野菜料理ですね。ミネストローネのようなスープが代表的です。
それと、羊を飼っていた農家が多かったので、チーズもよく食べていました。野菜のスープに羊のチーズを入れたりもします。
うさぎはマルタ料理を代表する食材ですが、かつての農民にとっては簡単に手に入るタンパク源だったのです。今でも、家族が集まるサンデーランチの代表的料理といえば、うさぎ料理ですね。

トマト、ガーリック、ローズマリー、ハーブ、オリーブといった、マルタと地中海のアイデンティティを象徴する食材を使って料理します。魚はマヒマヒやツナですね。海の塩とガーリックで炒めたり、マグロを塩漬けにした料理などが、まさに「伝統=ママの味」です。

― 旅行者にどんな食の体験をしてもらいたいと考えていますか?
ダニエル:マルタの食材を使ったローカルな料理を食べてほしいですね。レストランでは伝統的な野菜料理がおすすめです。ズッキーニやトマト、パンプキン、サボテン、イチジクなど、地中海の太陽をたっぷり浴びた野菜料理はどれも美味しいですよ。肉ですか?マルタには牛が少なく、食肉用ではなく乳牛がほとんどです。はっきり言って、牛肉の質は良いとは言えません。だから、牛より豚。肉よりも地元の魚介や野菜を食べてほしいですね。

それと、ゴゾ島の塩田(ヨーロッパで最も古いといわれています)で作られた塩を使った料理もぜひ試してください。ヒマラヤの塩とは質がまったく違います。太陽を浴びた海から取れたヘルシーな塩は、カリカリとした食感で歯ごたえも良いですよ。

あ、忘れてはいけませんね。ストリートフードのパスティッチもおすすめです。アラブの影響を受けたパイですが、マルタの人々にとっては子供の頃から慣れ親しんできた味。ぜひ味わってみてください。


―交錯する文化が生んだ、マルタ料理の現在地とは?
ダニエル:貧しかった島にヨーロッパやアラブから食文化が持ち込まれたことで、元々恵まれた気候を活かして農作物のバリエーションを増やしていきました。それと同時に料理の質も向上し、メニューのバリエーションも豊かになったのが、現在のマルタ料理です。地中海のほぼ真ん中で、さまざまな民族の味がミックスされたマルタの料理――それは、世界の誰もが「美味しい」と感じる料理なのです。
取材・文 山下マヌー
写真 尾嶝太
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