明太子ごはんにごま油が魔法の食べ方～搾りたてのごま油を求め、ソウルへvol.２

搾りたてのごま油って食べたことがありますか？ 市販のごま油と市場の手作りごま油とでは大きな味わいの差があります。市場の手作りごま油は職人さんの手によって一から作られるもの。ごま100%のエキスです。何より、搾りたてのフレッシュさを味わえるのは手作りごま油ならではで、人々の食の時間をさらに豊かなものにしてくれるものだと思っ ています。とはいえ、韓国でも市販品を使っている家庭や店が断然多いと思います。お値段も数倍以上の差があるので、家庭によって、気軽に市販品を使う人と、市場の手作りごま油を買いにいく人がいます。料理によって使い分けている人もいるのではないでしょうか。 オリーブオイルだと、生産者や搾りたての価値が世界中で評価されていますが、実はごま油にもそのくらいの違いがあるのです。私がソルソルソウルのごま油を作る際に一番苦労したのも、ごま油屋さんの開拓。韓国全国の数十ヵ所のごま油を実際に味わってみて、その中で一番おいしく、心から応援てできる職人さんに出逢ったのが今の生産者さんでした。絶対この味を日本に広めたい！ と心に決めて職人さんに想いを伝えました。だけど、相手は45年間、田舎町イェチョンでしか商売をされてこなかったご家族経営のかた。輸出販売に対するイメージが全くないので取引に自信がない、と2度も断られてしまいました。三度目の正直！ と思って、溢れる想いを最後にぶつけた結果「そこまで言うのなら、一度やってみましょう」と言っていただけたのが始まりです。私自身が「一生食べたいものを取り扱う」。これをモットーに、粘って本当に良かったと思っています。まずは、自分自身が商品の一番のファンでありたい。シンプルだけど、一番大事なことだと思っています。PRの仕掛けを一切せずにお客様の声だけでリピーターのかたが増えてくれたのは、本当に味わいの精度が高いからこそだと自信に繋がりました。

今回訪れたのはソウル市内の中部市場の中にあるごま油店。夫婦で営むごま油店が数軒並ぶ。

ごま油は韓国料理における「原点」。市場のごま油は味が格段に違う。買い求める価値と理由がそこにあります。

味にどうして差が出るかというと、手作りごま油は「ろ過しない」ことが大きな特徴になります。ろ過をしないことによって、ごま本来の風味がダイナミックに伝わります。繊細な料理が多い和食にはやさしい風味のごま油を使うことが多い半面、韓国料理はキンパ、ビビンパ、ナムル、チャプチェ、チヂミなど、ごま油の香りがメインとも言える料理が多いので、濃厚で華やかな風味のごま油が生きてきます。 搾りたてのごま油を入手したら、まずはごま油の風味をダイレクトに利かせる料理を楽しんで。ご飯にそのままかけたり、野菜と和えたり、スープに垂らしたり、素材にそのままつけて食べる用のタレにもぴったりです。もちろん炒め油としても香り高く、味をきちんと底上げしてくれるのでおすすめです。ソルソルソウルでは「明太子ごはん」をシグネチャーメニューとして推しています。ほかほかのご飯に明太子をのせ、万能ねぎと煎りごまを振る。そしてごま油をたらりとかけるだけの、まさに魔法の食べ方。これもぜひ、 試してみてください。

韓国料理にとってごま油とは、韓国の食文化の「原点」だと思っています。今はオイル業界も進化を遂げ、様々な商品が登場して私たちの食を豊かにしてくれていますが、ごま油の歴史は古く、大豆から作られるサラダ油が登場する前から一般的に使用されていました。朝鮮時代の官僚たちがおやつとして食べていた薬菓()にもごま油が原料として使われていたとされ、昔から人々を元気づけてきたことがわかります。韓国料理のべースになる基本調味料には醤油、味噌、コチュジャンなどの発酵調味料と、塩、砂糖、唐辛子粉、酢、酒、ごま油があります。中でもごま油は韓国料理を〝韓国料理らしく〞させてくれる存在ではないでしょうか。ソウルの街にも〝食のブーム〞というのはありますが、ごま油はいつの時代も愛され親しまれています。日本の人にももっともっとこのオイルの奥深さを伝える架け橋に、私たちがなれれば幸せです。

案内人／ソウミンジョン 撮影／尾原深水 編集／中野桜子