表参道から広がる繋がり 豊洲を飛び出した魚市場が生む新たな文化
ミシュランの星の数をはじめ、そのクオリティと多様性で「食の都」とまでいわれるようになった東京。最先端のレストランが続々と都心に生まれる中で見過ごされがちだが、東京の食の底力は、「食の伝統」の豊かな進化にこそある。
メトロポリタンでありながらも、一地方都市でもある東京の重層的な食文化を老舗、問屋、都市農家、仲卸の4つの「変わらない東京」にスポットを当てて繙(ひもと)く。
仲卸が豊洲を飛び出し表参道へ
流行の最先端を行く表参道で、月2回フィッシュマーケットが開かれている。仕掛け人は、豊洲市場の魚介仲卸「熊梅」の3代目、熊川和典さんと料理人の野村友里さん。
豊洲から最短・最速で鮮魚が届く
「豊洲には日本中から魚が集まってきますが、私たち一般の消費者に届くのは、飲食店やスーパーを経由してから。でも、ここでは熊川さんのような目利きが直接届けてくれるので、これほど確かなものはない。毎回ワクワクしています」(野村さん)
きっかけはコロナ禍だった
始まったのは、東京の台所が築地から豊洲に移転した2年後の2020年7月。
「今でこそ活気が戻りましたが、当時は移転直後にコロナ禍が追い打ちをかけ、疲弊していた豊洲をなんとかしなくてはと必死でした。でも、ここでお客さまと話をしていると、みなさん本当に楽しそうで、喜んで買って帰っていかれるので、こちらが元気とやる気をいただいています。プロとは違った視点をお持ちのお客さまから学ぶことも多く、いつも刺激をいただいています」(熊川さん)
会場となるのは、野村さんが主宰するグローサリーショップ「eatrip soil」が入るファッション複合ビル「ジャイル」の4階。毎月第1・第3土曜日の12時オープンと同時に行列ができる。近隣の住人やビル内で働く人のみならず、プロの料理人や遠方からわざわざやってくる常連さんも多い。
ここで魚好きになった子どもも
パック詰めにされていない魚に大人も目を輝かせ、ここへ来て魚が好きになった子どもも多い。目の前で切り分けてくれるタコの足は、リピーターが多い大人気商品で、西京漬けも背側、腹側など好みで選べると評判が高い。バラちらしは、「eatrip soil」でビールを買って、テラスで食べるのもおすすめだ。
暮らしの真ん中にフィッシュマーケットを
丸4年経った今ではすっかりビルの名物となり、ここで顔見知りとなって縁が繋がり、個人宅へ直接配送したり、逆に豊洲に足を運んでくれる人もいるという。
「暮らしの真ん中にフィッシュマーケットがあることが重要。昔から、市が立つところに人が集い、物や情報を直接交換するなかで文化が生まれてきました。ここでの繋がりをきっかけに、新たな何かが生まれるといいですよね」(野村さん)
eatrip soil
写真 長野陽一
取材・文・構成 和田紀子
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