食は土地の力を表す 能登の恵みを次代へ「この味を守る」プロが集結
地域の食、そして恵みを未来へ繋ぐ“ドリームチーム”
「レストランは、その土地の力を発信する場所。世界中からお客さんを呼べるぐらい、能登のポテンシャルは高いと僕は思う」
こう話すのは、生まれ故郷・輪島で超人気フレンチレストラン「ラトリエ・ドゥ・ノト」を営んでいた池端隼也さん。池端さんや輪島で飲食業に関わる人たちを中心としたメンバーは地震翌日から6月末まで一日も休むことなく炊き出しを行った。
そのメンバーがメインとなって、8月に開店したのが、ここ「mebuki」だ。
mebukiの厨房。フレンチのシェフ・池端隼也さん(写真手前中央)を中心にラーメン店、居酒屋、オーベルジュなど輪島の料理人たちが集った“アベンジャーズ”的居酒屋。
「地元の食材にこだわり抜くこと、それが輪島の食や恵みを守ることになると思うから。次は市内で生産された七面鳥を使ったラーメンを始めます。超美味ですよ」
mebuki ー芽吹-
石川県輪島市マリンタウン6-1
“発酵大国”能登が誇る天然万能調味料
「弊社の『いしり』はイカが原料。イカワタに塩をまぶし、長期熟成させたものです」
こう語るのは小木港にある、海産物の加工・販売業、カネイシの社長・新谷伸一さん。震災では、いしりの熟成施設に繋がる道が崩落、出荷が危ぶまれたことも。
「震災後、多くの方から『カネイシのいしりや塩辛がなくなると困る』というメッセージをいただいて。こんなに多くの人に支えてもらっていたのかと、嬉しい再発見でした」
いしりは奥能登に古くから伝わる魚醤のこと。秋田のしょっつる、香川のいかなご醤油と並ぶ日本三大魚醤の一つ。
カネイシ
石川県鳳珠郡能登町小木18-6
「輪島人の血液」とも称される、大切な醤油
「被災して『商売を畳もう』と考えた人も少なくない。でも、私は倒壊した蔵を見ても最初から再建が大前提。使命感というか、当たり前にあったものを当たり前の状態に戻す、その一心でした」
谷川醸造の四代目・谷川貴昭さんはこう話す。輪島の人間にとっては食卓に彼が造る「サクラ醤油」があるのが“当たり前”の光景。だから谷川醸造が被災したというニュースが流れ、町はちょっとしたパニックになった。
「いまは近隣の醤油蔵に委託醸造しています。販売再開すると、やっと醤油を入手できたと涙を流す人も。地元のため、この味を守っていくのが役割と痛感しました」
明治38年創業。倒壊した蔵は築100年超だった。再建にはまだ時間がかかりそう。「来春に着工できればと思っています」
谷川醸造
石川県輪島市釜屋谷町2-1-1
日本酒ファンも、同業者も絶賛する奥能登の銘酒
「お客様、同業の蔵元さんたちも『白菊、また飲みたいから諦めず造って』と。その言葉は本当に嬉しかった」(暁子さん)
江戸時代末に創業の白藤酒造店。看板商品「奥能登の白菊」は、かつてANAの国際線ファーストクラスの提供酒に採用されるなど評価を得てきた。
地震ではタンクや設備に大きな被害が。「絶望的だった」と九代目・白藤喜一さん。妻・暁子さんは「3日後に搾る予定だった、もろみ醪がタンクから溢れ、床が真っ白で」諦めかけた二人に手を差し伸べたのが県内外の同業者たち。タンクを積んだトラックで駆けつけ、救出した醪を県内の酒蔵に運んで搾り、瓶詰めして販売。
「能登のお酒を止めるな!」という共同醸造支援プロジェクトでは、福井や奈良の蔵元が協力。「繁忙期の酒蔵が既存の生産計画を変え、場所を空けるのは大変なこと。本当に感謝。大きな励みになりました」(喜一さん)
左は被災したタンクに残った本醸造酒と純米酒をレスキュー、急遽ブレンドした特別な酒。右は無農薬米から作った酒。だが原料の米農家が被災、離農しこちらも“幻の酒”に。
白藤酒造店
石川県輪島市鳳至町上町
案内人 浦出真由 (ヌシヤ株式会社代表)
取材・文 仲本剛
撮影 須藤明子