大正から江戸へタイムスリップ 福岡・うきは観光の穴場と楽しみ方は宿にあり
先人からの恵み 生活そのものに浸る場所、うきは市旧邸宅宿
福岡で再生を語るに欠かせない町がある。
うきは市は福岡県南東部に位置する、自然豊かな田園都市。古来、山脈から湧く豊富な地下水と、筑後川の水の恩恵を受けて発展してきた。ここで誕生した「みなも」は、旧邸宅(碓井邸、堀江邸、鏡田屋敷)を活かした分散型の古民家宿泊施設。江戸時代から続く白壁土蔵造りの重厚な建物が並ぶ「筑後吉井伝統的建造物群保存地区」に、6室の客室が佇む。
今、日本各地でホテルやレストランとしてリノベーションされた古民家が注目を集めるが、ここは一線を画す。どの邸宅も築100年以上。骨組み、壁、ガラス戸に至るまでそのまま残したところが実に多く、家の持つ強さと美しさを物語る。その上になされた見事な空間づくりは、ラグジュアリーの真髄。重厚なロビーの扉を開くと、しんとした空気が体を包み、心地よい静けさが広がる。かつて持ち主が「どうすればよいかわからない」とした空き家が、見事に息を吹き返す。うきはの生活様式に触れる体験は、先人たちからのメッセージを受け取るかのようである。
客室にはそれぞれコンセプトが潜む。
『堀江邸』は一棟貸しの広い客室。かつて診療所を営んでいた家族の旧邸宅は庭園も美しく、隣には江戸時代に築かれた用水路が流れる。
広々とした『堀江邸』の廊下。昔の屋敷の造りで、廊下に囲まれた居間は懐かしさを感じさせる。四季で景色のうつろう見事な庭園を一望できる。
鏡田屋敷
みなもの朝食は市指定文化財『鏡田屋敷』の大広間で。幕末〜明治初期に郡役所の官舎として建てられた屋敷は、以後160年の間、幾度も増築され、何人もの家主の手に渡り、屋敷としての生命を全うした。今は、市が大切に所有する。きしむ階段を上がりながら、初めて「家の生命力」というものを感じた。全開で景色を望める2階の居間に腰を下ろし風に当たると、酒を好んだという旦那たちの酌み交わす声が聞こえたようだった。
正面部分は文久3年(1863年)に建てられ、明治26年(1893年)に背面の座敷や2階が増築された。
当時のままの、かまどや洗い場が残る台所。お母さんが開けているのは当時の冷蔵庫。
みなも
大正ロマン宿
江戸時代のお次は、同エリアで大正ロマンにタイムスリップする。屋敷は築100年を超える「泊まれる喫茶店」。
静かに置かれたクリームソーダのしゅわしゅわとした気泡を眺めながら、クラシックな世界にうっとりする。中庭を取り囲む外廊下は、風がそよぎ、なかなか味わえない風情へ誘い出してくれる。
うきはの地下水を味わえるのはソーダだけではない。サウナは大きなストーブでのロウリュで湿度もパーフェクト。中庭の外気浴は最高のプライベート空間。
旅する喫茶 うきは
酒蔵サウナ
うきは市唯一の酒蔵。中川次郎社長は明るく笑顔で案内をしてくれるが、内容は大変斬新。酒樽に水を貯めた水風呂をウリにしたサウナに、酒蔵の敷地内に泊まれる築130年の古民家宿。
市の活性化のため前社長から代を替わって3年半。酒造所の経営はもちろん、大人の遊び場をあっという間に実現した。人の心を動かせるのはやはり人。うきは市の知られざる魅力を思い知る。
世界で唯一の「酔人」体験を。いい酒、いいサウナ、いい水風呂、いい食事にいい集い場。酒樽の水風呂に入ると、自分が酒造される気分に。酒蔵も売店も住宅も一緒になった、歴史ある築130年の建築をじかに味わえる世界初の「泊まれる酒蔵」。