好きだから離れていたい 現代アートが人々の日常に息づくロンドン
才人が旅先で出会った忘れえぬ光景を綴る。今回は、世界的な注目を集めている現代芸術家。

写真・案内人 片山真理
群馬県出身。2012年、東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。先天性の四肢疾患により、9歳の時に両足を切断。写真作品やオブジェ、インスタレーションをコンスタントに発表。2022年、テート・モダンに作品が収蔵された。今年秋、同じロンドンの「ヴィクトリア&アルバート博物館」でも展覧会を開催予定。

私はロンドンが嫌いだ。
ロンドンに初めて来たのは、2019年の1月。私にとって初の、海外での個展開催だった。同じ年、初の写真集を先行出版したのも、この街だった。私はいま、フランス・パリのギャラリーに所属しているが、年に1〜2回はパリとセットみたいにして、ロンドンを訪れている。

すごく面白い街だと思う。古い建物と新しい建物の交ざり具合が絶妙で。来るたびにいつも「すごいなー」と感心するのはバリアフリーの徹底ぶり。おそらく、ヨーロッパではダントツだろう。車いすで電車にも乗りやすいし、街を移動するのにストレスはほとんどない。クラブカルチャーが大好きな私にとっては、平日の夜でも必ずどこかのナイトクラブが開いているロンドンは最高だし、街の発信する音楽やファッションなどの文化は私の趣味嗜好ととても合っていることも自覚している。

アートシーンだって、ヨーロッパ各国に素晴らしい美術館は山ほどあるけれど、現代アートの担い手たちがいちばん切磋琢磨している街といったら、ロンドンは世界でもピカイチだと思う。
そして、何より素晴らしいと感じるのは、そのような芸術、文化に誰もが簡単にリーチできるようにしている、彼(か)の国の姿勢。私の作品を収蔵している美術館「テート・モダン」の入口にも「フリー・フォー・オール」と掲示されていて、企画展示以外は誰でも無料で作品を鑑賞できる。常々、芸術も教育もパブリックで皆に等しく手が届くものであるべきだと思ってきた私にとって、ロンドンの環境は理想的だし、訪れるたびに感動すら覚える。

いまでは親しい友人も大勢いて、仕事も縁もあるロンドン。滞在中は朝から晩までやりたいこと、行きたい場所、見たいもの、会いたい人が目白押しで。でも毎回、旅の終わりに必ず思ってしまう……あ〜、楽しいけど、ここはずっといてはダメなところだ、と。だから私は、生まれ育った群馬でいまも家族とぬくぬくと暮らしている。ロンドンは……そう、年に2回までがちょうどいい。
© Mari Katayama, courtesy of Mari Katayama Studio and Galerie Suzanne Tarasieve, Paris
翼の王国のアンケートにぜひご協力ください。
抽選で当選した方にプレゼントを差し上げます。