京都からお取り寄せする しば漬 “塩のみ”で発酵する格別な一品
食いしん坊の方々が出合った、とっておきのお取り寄せを教えてもらう連載。暮らしを幸せにしてくれるあの味を求めに、旅をしたくなることでしょう。
京都・大原に古くから伝わるしば漬は香りや食感、製法のすべてが雅
「発酵デザイナー」という肩書で、山梨にある「発酵ラボ」で研究にいそしみながら、日本だけでなく世界各地に赴き、発酵にまつわるフィールドワークを行っている小倉ヒラクさん。
「見えない発酵菌の働きを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、多種多様な発酵食品と向き合っている小倉さんが「とにかく香りがいい」と太鼓判を押すのが、『辻しば漬本舗』の『生しば漬』だ。
「発酵食の歴史を調べながら近畿地方を旅をしているときに出合ったのが、京都の大原で作られているこのしば漬。しば漬自体は、どのスーパーでも販売されている馴染みのある漬けものの一つですが、それらと『辻しば漬本舗』のものは製法も味も別もの。こちらのは、大原で平安時代後期に生まれたとされる伝統の味を継承し、調味料や着色料などは一切使わずに、赤しそと茄子、そして塩だけで発酵させているんです。きゅうりやみょうがも入れず、潔いほどにシンプル。最もオリジナルに近いであろう味です。
塩の浸透圧でにじみ出てきた水けとともに、乳酸菌と酵母が活動をはじめ、ぶくぶくと発酵。長い時間をかけて熟成させることにより、あっさりとした味に仕上がります。味や見た目の上品さはもちろん、特筆すべきなのは香り。フレッシュでフローラル、そして食欲を刺激してくる香りなんです。一度味わったら、『今まで食べていたしば漬は何だったの?』と思うでしょう」
『生しば漬』は、小倉さんがオーナーを務める、発酵食品の専門店『発酵デパートメント』でも取り扱っており、そこでも大人気商品だ。
「スタッフを集めて、店に置いている商品の試食会を定期的にするのですが、舌が肥えているうちのスタッフからも大好評です。アミノ酸や、糖分を加えずに塩だけで発酵させているので、味を安定させるのがとても難しいのですが、いつ食べてもおいしくそしてやっぱりよい香りです。我が家ではお茶漬けにのせて食べたり、刻んでポテトサラダに加えたりして自由に味わっています」
辻しば漬本舗
しば漬け発祥の地である京都・大原にて、古くから伝わる伝統製法で漬けこむ。鮮やかな色とフレッシュな香りが魅力。時間をかけて発酵させるため夏に1年分を仕込む。110g 500円。オンラインショップにて取り寄せ可能。
小倉ヒラク
発酵デザイナー。「発酵デパートメント」オーナー。デザイナーとして活動した後、東京農業大学で発酵学を学び、山梨県に発酵ラボを作る。世界各地のローカルな発酵文化を研究。著書に『アジア発酵紀行』(文藝春秋)など。
撮影 江原隆司
取材・文 高田真莉絵