三重・松阪の隠れ家グルメ 一日一組限定の名店中華料理『私房菜きた川』
やられた……。美味しいものをいただくたび、私はそんな思いに駆られます。
近年、私は三重県松阪市郊外の、古民家を改装した中華料理のお店「私房菜きた川」に年1回、ないしは2回と通っています。名古屋から列車で1時間強、最寄り駅からはタクシーで20〜30分と、少し不便なそのお店に通う理由は、もちろん料理が絶品だから。
一日1組限定で、地元食材に強いこだわりを持ったお店。松阪牛や伊勢湾の魚などの高級食材も使われていますが、私が毎回「やられた」と感じるのは、脇を固める野菜や果実です。
「裏で採れた青紫蘇(あおじそ)です」「このキュウリ、見た目はイマイチですが今朝、庭で採れたもの」と、店主夫妻は一つひとつ説明してくれます。ノンアルコールの私向けに「庭で採れた柑橘を搾っただけですが」とジュースを注いでくれたりも。近所の農家に分けてもらったなんて話はよく聞きますが、こちらはそれ以上。地元産どころか半径100メートル以内の、真に旬の野菜や果実が当たり前のようにふんだんに。
しかも、奇を衒(てら)った料理は一つもありません。どれもが素朴でシンプルに、炒めたり焼いたり揚げてあったり。調味料も余計なものは一切使わず、中華料理には欠かせない「醤(ジャン)」も、なんなら一から手作りです。そして、それを供してくれる夫妻の接客、その距離感も絶妙で。簡単には予約の取れない超人気店なのに、まるで遠い親戚の家に遊びに来たかのような、居心地のよさなのです。
気づけば退店時、次の予約を入れている自分がいます。そして帰りの列車で思うのです。「また、やられた」と。
今月の花は「スプレーバラ」。淡いグリーンやくすんだピンクなど、一輪ごとに個体差のある花です。それぞれの違いをシンプルにお楽しみいただけたら幸いです。

赤井 勝(あかい まさる)
65年、大阪府生まれ。花を通じ心を伝える自らを「花人」と称し、自身の飾る花を「装花」と呼ぶ。08年、北海道洞爺湖サミット会場を花で飾り、13年、伊勢神宮式年遷宮では献花を奉納。昨年、 大阪府堺市に「Akai Masaru ArtMuseum 」をオープン。
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