西川貴教×竹下雄真×間野義之が語る 旅先で健康を磨き 地方の未来を描く
トップアスリート、アーティスト、経営者が通う会員制パーソナルトレーニングジム「デポルターレクラブ」代表の竹下雄真さんが、各界のトップランナーと対談し、旅を通したウェルネスや仕事術、地方創生などのお話を伺う新連載。シリーズ2回目のゲストには、故郷・滋賀県のふるさと観光大使としても活動する歌手の西川貴教さんと、びわこ成蹊スポーツ大学(滋賀県大津市)学長に就任した間野義之さんをお迎え、「地方創生と観光」をテーマに、地方創生の課題や自身の健康習慣についてお話を聞きました(全5回の4回目)。
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国内に目を向けたきっかけはコロナ
竹下 西川さんも国内にどんどん目を向けたいとおっしゃっていましたが、西川さんにとって、旅はどんなものですか?
西川 全都道府県を普段は仕事やツアーで何周もしていますが、どこに行ってもホテルとライブ会場を往復するだけで、旅をしているようで旅ではないんですよ。ただ、コロナによる自粛中は、ある意味、従来とは異なる経験ができたんです。というのも、当初はデビュー25周年記念ツアーとして全国を回ろうと計画していたところ、コロナが起きてツアーは頓挫しましたが、都市部よりも規制が緩やかな自治体であれば可能だろうと、滋賀県内のみで25ヵ所で公演を実施。その後、お客様の要望に応えてほかの自治体でもコンサートを開催しました。従来ですと、ツアー中は、ライブが終わったらメンバーやスタッフと食事に出かけたりするのですが、自粛中は、当然それも皆無。ライブの本番前もなるべく人と会わないようにして、ライブ後はホテルに戻って弁当を食べて寝るだけ。そうなってくると、ライブで話すネタもなくなってくるんですよ。だから、町の情報を得るために、ライブの前日に町に入って、名所旧跡を散歩したり、ランニングをしたり。余った時間は、積極的に外に出て情報収集をするようになったんです。散歩しながら町の風景を見たりするだけでも情報量が全く変わってくるし、そもそも町の佇まいみたいなものを初めて知ることができたんですよ。コロナというのは、マイナスも多かったんですけど、僕にとってはすごくプラスもありました。
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竹下 ホテルと会場の行き来だけでは目にしなかったものを、初めて町に出たことで見られたということですね。
西川 5キロの範囲で行けるお城に行ってみようとか、片道10キロだから帰りはタクシーで帰ろうとかそんな感じでしたけどね。ただ、そういう時間で得られたのは、町の情報だけではありませんでした。例えば、自分の体のことを見直したり、今、自分が置かれている環境の中で何ができるのかということを冷静に考えたり、自分をリセットするいい機会だったんだと思います。年齢的にも50歳のタイミングだったので、 人生の折り返しを迎えた自分の今後の人生についていろいろ考えました。自分がなすべきことは何なのか、どうしていくことが正解なのかといったことを、旅のなかでの出会いや情報と紐付けながら考えていく。今、取り組んでいることも全てそれがヒントになっていたり、知り得たことは一旦、自分の引き出しにしまっておいて必要なときに出したり、そんな感じです。不思議とね、必要なものってきちんと視野に入ってくるもので、「これ、あそこで見たものが使えそうな気がする」ということも少なくない。そして、出会いのためには視野を広げておく必要がありますし、やはり、健康で心が穏やかでいることが大事だと思うんですよ。そうじゃないと、すぐそばにいいものがあっても、気づかずに通りすぎちゃう。今までは、自分に必要なものを求めて海外に行っていましたが、今は、それを国内でやっているということですね。
「旅中はホテルを変えない」パッキングより気晴らし重視
竹下 間野先生は、お仕事柄、いろんな国に行きますが、先生にとっては旅ってどんなものですか?
間野 僕は、出張で出かけるときでも、観光やアクティビティも取り入れて仕事だけにならないようにしているんですね。竹下さんの会社の「デポルターレ」という名前は、スポーツの語源で、ラテン語で「港を離れて気晴らしをする」という意味ですけど、旅もね、気晴らしが必要なんですよ。もちろん仕事はしっかりやる。でも、それ以外では、何を食べようかとか、サッカーの試合は何を観ようかなとかね、そういうのを必ず組み合わせて旅のプランを立てます。僕、国内も海外もANAを利用するんですよ。最近行った外国は、スペインのサン・セバスチャンです。
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竹下 世界的にも美食の町として有名ですよね。
間野 サッカースタジアムを見に行って、試合も観ましたけれど、食べ歩きも楽しみました。あと、最近はANAだと宮古島かな。ゴールデンウィークに行きました。直行便を使って時間を節約して、ホテルは空港からなるべくアクセスがいいところを選ぶ。で、数日間で行くときでもホテルは変えないで、なるべく気晴らしができるようにしています。
竹下 それが間野先生の旅行術ですか?
間野 そうね、ホテルを変えないというのが、僕の旅のスタイルなのかな。というのは、ホテルを変えるたびにいちいちパッキングとかをやっていると、時間の無駄だし、疲れるから。荷物を置きっぱなしにできるように、同じホテルに5泊でも6泊でもします。
竹下 僕も仕事を兼ねた旅がほとんどで、仕事以外の時間も、現地で流行っているエクササイズやジムを視察したり、現地のスーパーを見て回ったりしています。昔、アメリカのシアトルに留学していたときにスーパーを回らされたのがきっかけで、その地域のフィットネスの感度の高さを牛乳の陳列エリアで見るんです。ノンファットの種類とか、ミルクの品揃えからわかります。
間野 スーパーマーケットとか市場を見て回るのも面白いですよね。それで言うと、必ず地酒を飲む。それは外国に行ってもですよ。
西川 サン・セバスチャンの地酒って、ワインですか?
間野 「チャコリ」っていう微発泡の白ワイン。あと、「シードラ」っていうリンゴ酒。地酒って、地産地消の最たるものじゃないですか。その土地で何が採れるのか、その酒に合う食事が何なのかというのはお酒が一番わかりますよね。
竹下 間野先生、お酒の本を出したいってずっと言ってるんですよ。
間野 そうね、シングルモルトウイスキー。
西川 お好きですよね。
間野 ウイスキーだけで言うと、スコットランドは北海道とほぼ同じ面積なんですけど、そこに約100ヵ所蒸留所があって、僕はそのうち40ヵ所に行きました。別にそこで飲むんじゃないんですよ。撮り鉄と一緒で、蒸溜所の前で写真を撮って、それを1人で見ては、「ここ行ったね」ってニヤニヤしてるの(笑)。
西川 でも、僕みたいにお酒を飲まない人間からすると、めちゃめちゃ羨ましいんですよ。旅は仕事でなかなか行けないので、「じゃあ、都内のホテルに泊まろう」と思って、1泊したりとかして息抜きするんですけど、よくも悪くも、食事して以上、で終わっちゃうんですよ。間野先生みたいにバーがお好きだったりすると、食後に行かれたりするじゃないですか。食事の次があるっていうのが羨ましいなと思って。
天然の水風呂に比良山地 滋賀はヘルスツーリズムのホットスポット
竹下 西川さんは、旅先で必ずその土地の水を飲むとか、お米を食べるとかはないんですか? よく行く場所でもいいですし。
西川 ツアーの最中でしたけど、一時期はよくサウナに行ってましたね。サウナって、比較的参入しやすい業態なのかもしれないですね、何もないようなところでもどんどんサウナができているじゃないですか。ただサウナで言えば、意外に新しい施設よりも老舗のホテルのサウナが好きなんですよ。
間野 お風呂の中に入っているサウナですね。
西川 そう、ああいうのがすごく好きで、わざわざ泊まりに行ってましたよ。
間野 僕、実は今日、ここに来る前にサウナに行ってきたんです。大津市の近江舞子にできた本格的なサウナ。それと、僕の家の近所にね、テントサウナがあるんですよ。ただのテントサウナなんだけど、セールスポイントが日本で1番大きな水風呂付きと言ってます。
西川 琵琶湖があるから(笑)!
竹下 水温はどのくらいなんでしょうね。
間野 普通に泳げる水温ですよ。淡水の湖なので体がべたべたしない。西川さんも琵琶湖を泳いだことあるでしょ?
西川 あります。湖東だと彦根に松原水泳場というのがあって、砂浜に松林が続く美しい浜です。鳥人間コンテスト選手権大会の会場としても知られている場所で、昔から水泳場なんです。
間野 琵琶湖は一周約200キロありますが、20キロメートルだけ砂浜が白いんですよ。志賀から近江舞子の先の北小松までは白浜のビーチで、まさに白砂青松の絶景。水泳場として有名です。
西川 海外からのお客さんもそこを目的に来られる方が多いですね。また、冬になると、日本海側からの湿った空気が山に当たって雪に変わるので、たくさん雪が降ります。夏場とはまた全然違って、冬の雪景色も綺麗ですよ。
竹下 いろいろお話を聞いていると、ヘルスツーリズムも相性がよさそうですね。
間野 いいと思いますよ。アルプスとかね、ああいうところに行く人たちはみんな、足慣らしで比良山地に来るんです。標高1200mほどで、初心者から楽しめる山があるんですよ。トレッキングとかね、お年寄りも含めて多いですよ、電車で来られる方が。
竹下 また、ヨーロッパでは、「キロメートル・ゼロ」と言って、地元の食材、主にレストランから半径1km以内で収穫した食材を使った料理を提供するレストランが増えています。自分の住んでいる地域で採れた食材にどんな特徴があるのか、地域の風習や文化、歴史といった背景や物語を知りながら食べることで、自分が住む地域を再発見できるという考え方です。滋賀にもそういうレストランがあってもいいですよね。
西川 食材は、近江米や近江牛、野菜、果物もたくさん採れて、豊富です。可能性は無限だと思うので、いろいろ挑戦していただけるんじゃないかと思います。
西川貴教 | にしかわ たかのり
1970年滋賀県生まれ。1996年、ソロプロジェクト「T.M.Revolution」としてデビュー。2018年から西川貴教名義での音楽活動を本格的に始動。2008年に故郷である滋賀県から「滋賀ふるさと観光大使」に任命された。また、県初の大型野外ロックフェス「イナズマロック フェス」を主催し、地元自治体の協力のもと毎年開催している。2020年、滋賀県文化功労賞受賞。2019年にはNHKの連続テレビ小説『スカーレット』に俳優として出演するなど、多岐にわたって新しい挑戦を続けている。2020年と2021年、2年連続でベストボディ・ジャパン日本大会のモデルジャパン部門ゴールドクラスで優勝。2021年1月には50歳を記念した写真集『西川貴教 五十而知天命 ~五十にして天命を知る~』(小学館)が発売した。
間野義之 | まの よしゆき
1963年神奈川県生まれ。1991年、東京大学大学院教育学研究科修士課程修了、同年に三菱総合研究所に入社。中央省庁・地方自治体のスポーツ・教育・健康政策の調査研究に従事。2002年同社を退職し、早稲田大学人間科学部助教授に就任。2009年には、早稲田大学スポーツ科学学術院教授に。2024年7月、びわこ成蹊スポーツ大学第6代目学長就任した。スポーツ庁・経済産業省「スポーツ未来開拓会議」座長、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会参与など多数。著書に『オリンピック・レガシー:2020年東京をこう変える』(ポプラ社)、『2019・2020・2021ゴールデン・スポーツイヤーズが地方を変える』(徳間書店)、『スポーツファシリティ・マネジメント』(大修館書店)など。
デポルターレクラブ代表 竹下雄真 | たけした ゆうま
会員制トレーニングジム「デポルターレクラブ」代表。1979年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。早稲田大学スポーツ科学研究科修了。都内パーソナルトレーニングジムにてトップアスリートをはじめ多くの著名人の肉体改造に携わる。そのほか、慶應義塾大学SFC研究所上席所員、早稲田スポーツビジネス研究所招聘研究員、経済産業省地域×スポーツクラブ産業研究会委員などを務めている。著書に『外資系エリートはすでに始めているヨガの習慣』(ダイヤモンド社)、『ビジネスアスリートのための腸コンディショニング』(パブラボ)などがある。
取材・文・編集 服部広子
写真 松村シナ
*次回の「旅で解放する」は12月6日配信予定です。