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三吉鬼と、荒ぶるけんか梵天祭へ! 酒と食から秋田を満喫

三吉鬼と、荒ぶるけんか梵天祭へ! 酒と食から秋田を満喫

ENTERTAINMENT 秋田県

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ニッポン全国津々浦々、6000あまり存在するという伝承から都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、独自の解釈で造形しました。妖怪に誘われるがまま旅にでかける空飛ぶ百鬼夜行に、ようこそ。

三吉鬼
商売繁盛
ミノと笠を身にまとった屈強な大男。酒とタバコと相撲が大好き。「酒場でタダ酒を呑むが翌日に大量の薪を持ってくる」「農家に現れ畑仕事をこなすが稲を大量に持ち帰ってしまう」などの逸話がある。

神と鬼の曖昧な境界。荒ぶるけんか梵天へ

秋田の妖怪、三吉鬼は数多くの伝承を持ち、水木しげるを始め現代の絵師に様々な姿で描かれている。その素行を集約すると次のようになる。「山からふらりと降りてきて酒場で大量の酒を呑む。勘定を払わずに出ていくが、翌朝酒代の何倍もの薪を届けに来る」。この三吉鬼とは何者なのか、粘土で造形した三吉鬼を携えて、秋田を訪ねた。
三吉鬼の故郷とされるのが、秋田県人の心の拠り所でもある霊峰・太平山(たいへいざん)。太平山は古来、秋田で稲作が始まるとともに、豊潤な水をもたらす源として祀られるようになったと考えられている。この山岳信仰のもとに、7世紀以降には修行僧が目指す場所となった。諸説あるが元亀天正のころ(1570年〜)、城主であった藤原三吉が世を捨てて山に籠り、やがて力と勝負の神と神格化され三吉霊神(みよしのおおかみ)(三吉さん)と呼ばれた。そして民間で語り継がれる中から三吉鬼が生まれたようだ。
太平山頂上と秋田市赤沼には太平山三吉神社総本宮(たいへいざんさんきちじんじゃそうほんぐう)があり、毎年1月17日に赤沼の里宮で「三吉梵天祭(ぼんてんさい)」が行われる。梵天とは丸太棒に籠をのせ、布で包んだ大きな円筒形の御幣(ごへい)(神様への捧げ物)。町内会ごとに奉納され、三吉霊神の気性を映し、激しく押し合い梵天に付けたお守りを奪い合うことから「けんか梵天」とも呼ばれている。

雪のちらつく中、3年ぶりに行われた梵天祭。梵天は、他の梵天と触れ合うほどに別の神霊を従え、強く大きくなるそうだ。参加した町内会の数は例年の半分ほどだが、怯むほどの迫力があった。地元の人曰く「平穏無事に終わったらご利益ないよ!」

酒と食から秋田を満喫。三吉鬼を辿る旅

梵天祭の前半では、子どもたちや地元の企業が梵天を神社に奉納。螺貝(ほらがい)の音と、唄い継がれてきた三吉節が心に染みる。梵天は奉納された後しばらくの間、太平山が見渡せる神社の傍らに縦に並べて奉奠(ほうてん)される。

後半のけんか梵天前にあおるという秋田の酒は、さぞ美味いのではないだろうか。秋田駅から北に20km、小玉醸造で太平山の名を冠した日本酒をいくつか試飲した。ほんのり甘くキレがよい、これぞ北国の味!五代目蔵元・小玉真一郎氏に聞くと、「生酛(きもと)(天然の乳酸を使った酒母)造り」という、自然の力を利用した伝統的な醸造法を貫いており、手間はかかるが旨味があり喉越しのよい、きれいな酒になるという。小玉氏は若かりし頃に梵天を担いで卸先の小売店を招福祈願して回った経験があり、学生の頃は一年おきに太平山を登山していたという生粋の秋田人。太平山は鎖を手繰って登るなど、手強いルートもあるという。三吉鬼に会いにいくなら夏に出直す必要がありそうだ。

さて秋田駅周辺には、地酒と郷土料理を揃える居酒屋がたくさんある。まずは地元客と観光客で賑わう『永楽食堂』へ。とにかく壁一面に貼られた酒のお品書きが圧巻だ。初めてなのに懐かしい、まるで実家のような居心地が嬉しい。

もう一軒はテーマパークさながらに秋田の酒と食を楽しめる『秋田川反漁屋酒場』。王道の郷土料理がシックな照明の和室でゆっくりいただける。翌日は炭火焼きりたんぽの『鈴和商店』でお土産を買い、帰ってからも秋田を満喫。三吉鬼よ、待ってておくれ。

味噌づけきりたんぽ焼き、比内地鶏。秋田の県魚ハタハタは三吉鬼がムシャムシャ食べたという伝承あり。秋田の地酒は「チトセザカリ」「刈穂」「六舟」を。純米吟醸酒は檜の枡で、端っこにちょっと塩をつけて。春ならばこしあぶら、タラノメ、竹の子など秋田の山の幸も楽しめる。秋田近海で獲れる刺身の盛り合わせは、魚も皿も美しい。(秋田川反漁屋酒場)

森井ユカ

立体造形家/キャラクターデザイナー。ポケモンカードゲームのイラストレーション、小麦粘土セット『ねんDo!』のディレクションなどを担当。著書多数。

出典:『決定版日本妖怪大全妖怪・あの世・神様』水木しげる(講談社文庫)/『雪國民俗(第44号)』(ノースアジア大学雪国民俗館)/『秋田の神々と神社』佐藤久治(秋田真宗研究会)/『太平山の歴史』田村泰造(太平山三吉神社総本宮)/『秋田市史第十六巻民俗編』(秋田市)/『秋田の民話』瀬川拓男、松谷みよ子(未来社)/総本宮太平山三吉神社公式サイト

取材・文・造形 森井ユカ
撮影 五味茂雄
編集 中野桜子

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