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妖怪 「異獣」と出会うところには美味しいお米と日本酒@新潟

妖怪 「異獣」と出会うところには美味しいお米と日本酒@新潟

ENTERTAINMENT 新潟県

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ニッポン全国津々浦々、6000あまり存在するという伝承から都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、独自の解釈で造形しました。妖怪に誘われるがまま旅にでかける空飛ぶ百鬼夜行に、ようこそ。

第二回 新潟/異獣

越後国魚沼郡の伝承。背は 高く俊敏、猿のようで猿ではない、赤い髪に灰色の体毛。山道で、弁当と引き換えに荷物を担いでくれる。里で人助けをしたり、焚き火にあたりに来ることもある。

秋が野山を覆ったある日に、新潟県の魚沼地方に出没したとされる妖怪、異獣を訪ねた。

 異獣については江戸時代の随筆家、鈴木牧之()により合計7巻刊行された書物『北越雪譜)』(1837年)なしに語ることはできない。雪国ならてではの生活様式がつぶさに観察され、生き生きとした表情豊かな挿絵と共に丁寧に記録されたもので、今で言うところのベストセラーとなった。その中で短文ながらも鮮烈な印象を残しているのが、異獣についての項だ。

 当時の魚沼の主要な産品であった織物の()を担ぎ、堀内()から十日町への七里(およそ27km)の道のりを歩いていた竹助。川辺で一息ついたときのこと、赤い髪をなびかせた大柄な異獣がやってきておにぎりを欲しがった。分けてやると礼なのか、荷物を担いで先導したという。しばらく運ぶと疾風()()く去っていった。異獣の体毛は灰色で、腰に枯れ葉を巻いていたとも言われている。

竹助の足取りを追って、現在の国道252号を目指した。重い荷物を背負い独り歩くには過酷であったと実感できたが、坂はあるものの比較的穏やかで、なにより田畑の美しさに目を奪われる。道のり半ばの、おそらくこのあたりで異獣と出会ったか、とされる小川の側に腰を下ろし、町で買ったおにぎりをいただく。甘みとコクのある魚沼の米は絶品だ。いつ異獣が現れたとしてもすぐに渡せるよう心構えをしながらも、口に運ぶ手は止められなかった。

竹助が歩いた国道252号から北の山側を登ったところにある「慶地の棚田展望台」。魚沼の美しい棚田が一望できる。空気も美味()い!

秋の魚沼を歩けば、美しい黄金色に圧倒される。異獣もしばし足を止め、揺れる稲穂に見惚れただろうか?

異獣を訪ねる旅に、おにぎりは欠かせない。原文では「焼飯()」とあるが一般的なおにぎりを指すときにも使われる。

時を超え山を越え 生き続ける異獣たち

魚沼地方の厳しい寒さは、生活に多様な工夫をもたらし、文化を育んだ。竹助が運さらんだ白縮は雪に晒すことでしなやかになり、雪は積もるほど豊富な湧き水となって田畑を潤し、美味しい米ができあがる。魚沼地方を走り回れば、米自慢のおにぎり販売店がいくつも目に入る。

そして異獣が好んだ美味い米を追いかけると、美味い日本酒にたどり着く。酒好きが目を輝かせる魚沼の美酒「鶴齢()」の醸造元である青木酒造では、鈴木牧之の挿絵をべースにした異獣が「雪男」という日本酒のシンボルとしてラべルに配されている(サイダー、焼酎もあり)。一度見たら忘れられない、ずんぐりフサフサしたシルエット。徳利やぐい飲み、Tシャツなどのオリジナルグッズにも登場し、遠方からやってくるファンたちを喜ばせている。

気取らない普段飲みに最適な辛口の「雪男」に、異獣のデザインが施されたのは20年ほど前のこと。当時老舗の酒蔵がこのようにキャラクター化されたシンボルを起用することはまだまだ珍しく、物議を醸したこともあったそうだ。その後、全国でデザイン性を追求した日本酒ブランドが続々と誕生することになり、「雪男」はいつのまにかその先陣をきっていた。

創業1717年、地域で最も古い企業のひとつとして伝統を守りつつも、進化し続ける青木酒造は、()の鈴木牧之とは親戚筋にあたる。おにぎりと引き換えに人助けをした異獣に習い、「雪男」の売上の一部は、ここ何年も山岳救助やスポーツ選手の支援機関などに寄付されている。

ところで妖怪はみな恐ろしいもの、という先入観はないだろうか? 確かに世界各地で伝承される妖怪や怪物と()しきものたちには、危険を避けるための教訓が込められていることが多く、怖いエピソードとセットになるのが定石だ。また妖怪の語源は中国に由来し、一世紀の『漢書』では「怪異な事象」を指す言葉として記された。しかし江戸時代に花開いた日本の妖怪文化には、柔軟な発想から日々を豊かに楽しむための物語がベースになるものも数多く見られ、現代の小説、漫画やアニメ、ゲームに至るまで多大な影響を与え続けている。

塩沢にある鈴木牧之通りの青木酒造では『北越雪譜()』の全7巻が保存されている。

魚沼でおにぎり三昧!専門店が点在しており、一個一個に表情がある。

おにぎり専門店の倉友農園では、朝早くからひとつひとつ丁寧ににぎられる。雪解け水が美味しい米を育て、9月半ばからは待望の新米も登場する。

『北越雪譜』より、異獣の挿絵。初版本が塩沢の鈴木牧之記念館に展示され、地域の小学生は授業で必ず見学する。

出典:『北越雪譜』鈴木牧之編撰京山人百樹刪定岡田武松校訂(岩波文庫)/『江戸のベストセラー北越雪譜』鈴木牧之記念館編(塩沢町文化・スポーツ事業振興公社)/『妖怪萬画1 妖怪たちの競演』和田京子著(青幻舎)

取材・文・造形 森井ユカ
撮影 五味茂雄
編集 中野桜子

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