「来年また来る」と決めた旅——三毛猫ミケと“祈りが続く場所”の物語
徳島で出会ったのは、単なる観光地ではなく、物語が生き続ける場所だった。お松の無念と三毛猫ミケの敵討ち、その記憶を継ぐ無数の招き猫。さらに食や風景へと続く旅の中で、筆者は“心が動く理由”を知る。祈りは土地とともに息づいている。
数千もの伝承の中から、都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、造形作家森井ユカの独自の解釈で創造しました。妖怪に誘われるがまま旅すると、美味しいもの、きれいな景色に必ず出会える!? ようこそ、空飛ぶ百鬼夜行へ。
徳島県・化け猫

ご利益 心願成就
三毛猫のお松への思い、今も生きる
正義を貫いたままこの世を去ったお松。その飼い猫の魂が仇を討つという、江戸時代の伝承。ミケという名前の通り三毛猫であり、徳島のお松大権現には三毛猫の招き猫が多数祀られている。
どこを見ても招き猫お松の魂は三毛猫と共に
日本全国に多数の伝説がある化け猫。現代も多様な姿で漫画、アニメ、そして立体物などで繰り返し制作されている。猫好きな筆者としては念願の化け猫制作になった。情念が体に湧き立つ三毛猫の姿で造形した。

江戸時代のこと。村の窮状を救うため、土地を担保に富豪から金を借りた庄屋の惣兵衛が、その富豪から土地を横領された末に病死する。妻のお松が決死の思いでお上に直訴するも、処刑されてしまう。そのお松を悼(いた)み建立(こんりゅう)されたのが、徳島の神社「お松大権現」。

お松の愛猫の三毛猫ミケの魂が、化け猫となってお松の敵討ちを見事に果たすという顛末(てんまつ)から、願いが叶うとして、受験、スポーツ、商売などの必勝願いで訪れる人が引きも切らない。ここでは三毛猫ミケにちなんで、1万体を優に超える三毛の招き猫が奉納され、リアルな猫たちも悠々と歩き回る。


庄屋の惣兵衛に関する古文書の実物は境内で展示されており、その物語は県立図書館の郷土史コーナーでもいくつか見られる。昭和初期には芝居として県下各地で上演もされていたとのことだ。
ここで招き猫を1体借り受けた者は、翌年2体にしてお返しするという習わしがある。来年また訪れるときに願いが叶っていることを祈りつつ、1体を選び大切に家の棚に祀らせていただく。
お松大権現
猫になって食べ歩く徳島渦に再訪を誓う
猫で満たされた徳島「お松大権現」への旅は、猫好きなら足を止めずにはいられない「酒猫(さかねこ)」に続く。店内を見渡すと次々と目に入る猫の絵やオブジェ……箸袋にまで直筆の猫のイラストを発見し恐れ入る。が、それだけではない。日本酒が豊富で、盛り付けのセンスが映えるこだわりの料理にも魅了される。



居酒屋 酒猫
1971年創業、常連さんから観光客まで幅広い支持を集める「支那そば 名東軒(みょうどうけん)」のラーメンは、醤油ベースのスープに甘辛の豚バラ肉、そしてポトリと落とされる生卵。これが徳島ラーメンか!と心の中でこだまする。細めの麺がスープによく絡み、気がつくと完食。通いたくなる名店だった。


【上】三代目店主の武田俊二氏。背後には大きなかまどがどっしりと構えている

支那そば 名東軒
徳島の友人から、魚をたらふく食べるならここに行けとすすめられたのが「びんび家」。海岸沿いに建つ店に入れば、その広さと時間を問わずの盛況っぷりに圧倒される。盛りだくさんの定食から釜飯、一品料理、そしてカレーまで、何度来ても飽きることのないバリエーションだ。猫になりきって魚に食らいつく。


大人気の「びんび定食」は、刺盛・天ぷら・酢物に伊勢えび汁と大ボリューム。マチのサクサクとした食感は忘れ難いおいしさ(びんび家)


活魚料理 びんび家
最後に訪れたのは徳島名物「鳴門の渦潮」。いつも壮大な渦潮が見られるわけではなく、月による潮の満ち引きに左右されるデリケートな存在。この日も残念ながら小ぶりではあったが、観覧船の船頭さんが素早く見つけては方向を指し示してくれた。招き猫を奉納しに来年訪れたときに、もう一度観に行ってみよう。
うずしお観潮船
参考
『日本一社お松大権現由来』(お松大権現公式リーフレット)
『阿波のがんこもん阿波の歴史小説〈41〉』(阿波の歴史を小説にする会)
『文化あなん第17号』文化あなん編集委員会(阿南市文化協会)
「ニッポン47妖怪さんぽ」が2025年度グッドデザイン賞を受賞いたしました

取材・文・造形 森井ユカ
立体造形家/キャラクターデザイナー ポケモンカードゲームのイラストレーション、「コネコカップ」「ネゴ」のデザイン、粘土遊びセット『ねんDo!』のディレクションなど。著書多数。
撮影 原ヒデトシ
編集 中野桜子
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