メインコンテンツにスキップ
〝不老長寿〟海坊主に会いに行く愛媛・宇和海を横切る旅

〝不老長寿〟海坊主に会いに行く愛媛・宇和海を横切る旅

ENTERTAINMENT 愛媛県

share

ニッポン全国津々浦々、数千もの伝承があるとされる中から都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、独自の解釈で造形しました。妖怪に誘われるがまま旅にでかける空飛ぶ百鬼夜行に、ようこそ。

海坊主の伝説は日本全国にあるが、特に愛媛の宇和海の沿岸に多いとされている。身体は赤銅色で目は丸く、短い尾を持ち、泳ぐスピードは意外にも遅い。その姿を見た者は長寿が約束される。

地球規模で出現する、海や川から生まれた妖怪

立体造形家として47都道府県の妖怪を造形しているが、それ以前に着手していたのが世界各地の伝承から生まれたモンスターだった(ここではモンスターと妖怪を同義とする)。そのほとんどは禁忌から生まれたもので、あそこは危ないから行くな、この時間は出かけるな、なぜなら……と謎の存在を引き合いに出すことによって説得力をよりアップさせている。なかでも海や川など水辺にちなんだ存在のなんと多いことか。地球では水面の占める割合が陸よりも圧倒的に広いため水難の話は枚挙にいとまがなく、そんなわけで島国日本にも水辺にすむ妖怪が数多く存在する。
海坊主の伝説は日本各地で見られるが、特に多いとされるのが愛媛県と大分県の間、愛媛寄りの宇和海周辺。身体は赤く目は丸く、尾を持つ人の形とされながら、幽霊船や火の玉のことも海坊主と呼ぶことがあるそうだ。海が荒れているときなどに数匹で現れ船を襲い、相撲を挑んでくる者もあれば、しゃくで海水を流し入れて沈めようとする者もいるという、なかなか容赦のない妖怪である。とはいえ「その姿を見た者は長生きする」という後日談とセットになっているので、危ない思いをして帰ってきた者は、以後慎重に生きていく傾向にある……のかもしれない。

宇和島の鯛めしは極上の卵かけご飯

さて海坊主に会うために、宇和海を船で渡ることにした。乗船前、宇和島でいただいたのはご当地名物の『鯛めし』。愛媛には二つの鯛めしがあり、一つは松山の、鍋で鯛と米を炊き込んだもの。もう一つがここ宇和島の「卵かけご飯」としての鯛めしだ。生卵に醤油や酒を混ぜ、鯛の刺身と絡めて白米にかける。弾むような食感の鯛とトロリとこくのある生卵の相性は抜群で、たちまち胃の中に滑り込んでしまう。元は伊予水軍が火の使えない船上で考え出した料理で、刺身になる魚であれば何を使ってもよく、海賊料理ともいわれるそうだ。
また宇和島では小魚をすりつぶして揚げた『じゃこ天』(かまぼこ)の販売店が点在し、店によっては店頭で揚げてくれるので食べ歩くこともできる。大きさは手のひらに乗るくらいの、長方形がスタンダード。いくつか回って数個ずつ買い、船の上で味を比べてみるのも楽しいだろう。海坊主もうらやむ、魚尽くしの旅になる。

宇和島のじゃこ天販売店は徒歩でも1時間あれば3〜4店舗回れる。モールの一角にある『河内屋蒲鉾』では目の前で揚げてくれるので(写真・棒付き)、熱々でいただける。

見た目にも麗しい、胸が高鳴る『かどや 駅前本店』の鯛めし御膳(左のふくめん、皿のじゃこ天も同店)。刺身をどの程度生卵だしに漬け込むかで味も多少変化する。一年中食すことができるが、鯛は3〜4月の春頃が最もおいしいとのこと。

丸い器は『ふくめん』。千切りしたこんにゃくを、そぼろやネギなどで覆った甘じょっぱい宇和島の郷土食。語源は覆面、あるいは方言で千切りを「ふくめ」ということから。みかんの皮の香りが爽やかで、華やかな一皿。

海坊主に会いに行く。宇和海を横切る旅

海坊主を追って八幡浜港から大型のカーフェリーに乗り込んだ。長寿が約束されるのであれば、ぜひともその姿を拝んでみたいもの。航路は大分県の臼杵か別府まで延びていて、約2時間半〜3時間の船旅になる。予想よりもずっと広大な船内にはエスカレーターがあり、様々なグレードの船室とカフェスペースの他、多くのマッサージチェアやスロットマシンまで置いてある。売店には愛媛と大分のご当地食品も並ぶ。
 日没とかぶるような時間を選んだ上に強風の中の出航になり、海坊主が出没する条件は揃った。船内の楽しそうなアミューズメントスポットを振り切り、ほとんどを甲板で過ごすことにする。上空の機内から見る度に魅了されていた「愛媛の先っちょ」、日本で一番細長い半島である佐田岬半島の横をゆっくりと通り通り過ぎるコースが嬉しい。
 海坊主の目撃例は人間の子供サイズから数十メートルまで、大きさに幅がある。遭遇した場合どうすればいいかは既に調べておいた。回避すると座礁の危険があるため突っ切るのが吉とのこと、これほどの大型船であればむしろ小回りはきかないので問題はないだろう。またしゃくで海水をすくい入れ船を沈めようとするらしいが、この規模からすると恐らく心配はない。もし自分が取りつかれてしまった場合は金比羅様を念じれば退散してくれる。
 深い青緑色の水面と佐田岬半島を代わる代わる眺めながら甲板を歩き回った。海は思ったよりも透明度が高い。ふっと大きな何かが見えたような瞬間も何度かあったが、その度にじゃこ天を食べて気持ちを落ち着かせたのだった。

2022年11月に公開されヒットしたアニメ映画『すずめの戸締まり』で主人公が乗るのはこの船がモデルのようで、ディテールの忠実な再現に思わず顔がほころんだ。

森井ユカ

立体造形家/キャラクターデザイナー。ポケモンカードゲームのイラストレーション、小麦粘土セット『ねんDo!』のディレクションなどを担当。著書多数。

出典:『愛媛県 百科大事典 上巻』(愛媛新聞社)/『えひめ昔ばなし』森正史(南海放送)/『宇和地帯の民俗』和歌森太郎(吉川弘文館)/『大洲の昔ばなしと里歌』(大洲市教育委員会)/『47都道府県・妖怪伝承百科』(丸善出版)/『決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様』水木しげる(講談社文庫)

愛媛県のおすすめホテル

  • 宇和島オリエンタルホテル

    宇和島の愛あふれる心地よい接客であたたかく。自然にゆったりとお過ごしいただけるサービスをご提供いたします。
    TEL : 0895-23-2828
    詳しくはこちら

  • JRホテルクレメント宇和島

    JR宇和島駅に直結し、宇和島市の中心部に位置するホテルです。足摺、四万十観光の拠点に便利で、旅やビジネスの行動拠点として、地域社会のゲストルームとしてお気軽にご利用いただけるホテルです。
    TEL : 0895-23-6111
    詳しくはこちら

  • NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町

    松山から約1時間。「伊予の小京都」と謳われる大洲。肱川のほとりに位置する城下町の分散型ホテル。全客室に檜風呂または客室風呂をご用意し、プライベート感ある安心した滞在をお約束大洲城の天守を正面に望むレストランでは、愛媛の美食が詰まった和洋折衷のコースをご用意。食後は、宿泊者限定のフリーラウンジへ。翌朝10時まで、お酒やドリンクを気兼ねなくお楽しみいただけます
    TEL : 0120-210-289
    詳しくはこちら