韓国・済州島の妖怪「ソルムンデハルマン」と巡る石と美食の旅
数千もの伝承の中から、都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、造形作家森井ユカの独自の解釈で創造しました。今号は海外の妖怪と旅する特別編。妖怪に誘われるがまま旅すると、美味しいもの、きれいな景色に必ず出会える!? ようこそ、空飛ぶ百鬼夜行へ。
【海外番外編】
韓国・済州(チェジュ)島 ソルムンデハルマン

島を創った守り神は大女!? 500人の子を持つ、「女の島」済州島の伝説
岩や土で済州島を創造したといわれる、とても大きな女性。500人の息子を産み育て、彼らは全員将軍となった。
石の文化が息づく済州の大きな女性の物語
世界中を旅してわかったのは、どこの地域にもたいていは何十年、何百年と語りつがれる伝承があり、その物語に土地の成り立ちが託されていることだ。
街を歩くとすぐにわかるが、済州島は石の文化が根付く。建物の壁や道路の縁石などに、ポツポツと小さな穴があいた地元産の火山石(玄武岩)が見られる。ここには、巨大な女性ソルムンデハルマンが、自分の衣服をたくし上げて岩石や土を運び、島を創造したという豪快な言い伝えがある。
しかし悲しいことに、大きな鍋でお粥(かゆ)を作ったソルムンデハルマンはその中に落ちてしまい、将軍となった500人の息子たちはそれを知らずに食べてしまう。食後に気づいた彼らは母を恋しがり、嘆き悲しむうちに石像になってしまった。母性の強さや儚(はかな)さ、どうにもできない焦燥など複雑な感情が呼び起こされる話だ。
このソルムンデハルマンの物語には、石をふんだんに使った公園や美術館で会える。北西部の済州島三大名山である山房山(サンバンサン)も、彼女が先を折ったためにあの台形のような形になったとか。
済州石文化公園
山房山(サンバンサン)
地元溶岩石と巨大な鍋に済州島の神話を想う

岩と土で済州島を創った巨大な女性、ソルムンデハルマンの逸話にぴたりと重なる済州島グルメを発見。済州島の溶岩石で作る焼き肉を求めて、通称「黒豚通り」の家庭的なお店「タプコヒャン」へ。普通のサムギョプサル店が並ぶ通りだったところに、済州島産の黒豚を使用した元祖が、この店だったとのこと。
今では「黒豚通り」と呼ばれ観光客で賑(にぎ)わう。店主曰(いわ)く、溶岩石であれば黒豚の皮をじっくり焼きやすくモチモチとした肉が味わえる。ただ、割れやすいため他店はどんどん鉄板に替えていき、今では溶岩石を使う店は珍しいそうだ。


【左】実家に帰ったかのような温かい接客で、黒豚のさまざまな部位を堪能できる。
【右】黒豚通りの「タプコヒャン」で使われているのは済州火山石の石板(板の片隅にそう記されている)。
탑고향(タプコヒャン)
次に、空港の近くの「ヨンブクロ・ヘムルタン」で済州島の海鮮をこれでもかと使った、ダイナミック極まりない鍋「ヘムルタン」を。

タコ、エビ、カニ、どっさりの鮑(あわび)……思いつく海鮮がありったけ盛り込まれ、テーブルからは歓喜の声が上がる。当然の如(ごと)く出汁(だし)は非常に濃厚になる。強い酒が合うと思っていたが、個人的には意外にも済州島の爽やかなオレンジジュースがマッチした。
不思議な話を辿ってみれば、世界中どこにでも、美味しいものに出会えるのだった。

ヨンブクロ・ヘムルタン本店(연북로해물탕 본점)
参考
済州石文化公園内、ソルムンデハルマン資料館VTR
「ニッポン47妖怪さんぽ」が2025年度グッドデザイン賞を受賞いたしました!

森井 ユカ
撮影 金子斗夢
編集 中野桜子
取材・文・造形 森井ユカ
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