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水木しげるも描いた妖怪「琴古主」 伝承の地で天下一品の佐賀牛を味わう

水木しげるも描いた妖怪「琴古主」 伝承の地で天下一品の佐賀牛を味わう

ENTERTAINMENT 佐賀県

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ニッポン全国津々浦々、数千もの伝承があるとされる中から都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、独自の解釈で造形しました。

妖怪に誘われるがまま旅にでかける空飛ぶ百鬼夜行に、ようこそ。

琴古主(ことふるぬし)

江戸時代の画家・鳥山石燕(とりやませきえん)は楽器や道具の妖怪を多数描き、妖怪化した琴を「琴古主(ことふるぬし)」として図説した。また『肥前国風土記』には、現在の佐賀県における琴の不思議な話が残されている。

ご利益:平穏無事

歴史が息付く神埼に不思議な琴の物語を追う

初めて妖怪・琴古主を見たのは江戸時代の妖怪画家、鳥山石燕(とりやませきえん)の『百鬼徒然袋(ひゃっきつれづれぶくろ)』で、居間に置かれた筑紫箏(つくしごと)に目や乱れ髪が生えているものだった。

そして 1999年発行の「水木しげるの妖怪百物語 日本篇」にはその絵のリライトに添えて「佐賀県神埼(かんざき)郡の南部の丘で景行(けいこう)天皇(西暦 71 〜130年に在位)の命により宴が催され、記念に置かれた琴が楠(くすのき)に変化(へんげ)、琴の音を奏でるようになり琴古主と呼ばれた」とある。

大和時代から幾千の時を超えるお琴の精霊

鳥山石燕による琴古主の図。

また神埼市には景行天皇が創建した宮が3つあり、そのひとつ櫛田宮(くしだぐう)には琴にまつわる楠の古木と池があることもわかった。

宴が催されたとされる琴木岡(こときのおか)の伝説は、700年代に著された『肥前国風土記』の中に確かにあった。場所は余江(あまりえ)付近ということで行ってみたが、残念ながら目立つ丘はもう見つからなかった。

気を取り直し神埼の櫛田宮を訪れると、景行天皇が琴を埋めた場所から生えてきたという伝説の古木「琴の楠」に出迎えられ、傍には琴の形をした「琴の池」があった。琴がこのような巨木に変化するとは想像するだけで身震いしてしまう。

櫛田宮の琴の楠。息を止め7回半回るとご利益があるとのこと、3周でギブアップ。

筆者は筑紫箏をモチーフに妖怪を造形したが、社務所に問い合わせたところここでいう琴は、琵琶(びわ)形であるとのことだった。ものに魂が宿った妖怪「付喪神(つくもがみ)」は、古来より好んで描かれ、とりわけ人が使う道具には情念が乗り移るのか、不思議な逸話が数多く残されている。今日もどこかに妖怪の跡を辿って、あちこちを巡る者がいることだろう。

櫛田宮(くしだぐう)

佐賀県神埼市神埼町神埼419-1

Google Map

美食だけでは終わらない 佐賀の旅の深層へ

神埼の櫛田宮で琴の楠と対面した後に向かったのは、天下一品の佐賀牛に出会える「肉処千里庵」。緑が繁る丘の上にあるこの店には、まるで友人の家を訪ねたような温かさがあった。

生のまま仕入れ生のまま供される風味豊かな生牛タン。「千里庵」は福岡の中央区に支店がオープンしたばかり。大都市でも味わえるとはなんと贅沢な。

佐賀牛は雌牛を一頭買いし、郊外の店で提供することで徹底的に質や価格にこだわることができる。店主の竹本氏は建築家から転身しこの道に。牛肉の盛り付けは言わずもがな、その皿も丁寧に選ばれた見目麗(みめうる)わしい佐賀の有田焼。運ばれるたびに歓声が響き渡る。

「千里庵」のお任せ木箱盛り。佐賀牛5種、生牛タン、牛ホルモン、みつせ鶏、豚。頬が弛(ゆる)まぬ人はいない。

千里庵

佐賀県神埼市神埼町城原3683-5

0952-65-1167

Instagram @nikudokoro.senrian.saga

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櫛田宮のイベントにポップアップ出店したこともある「リンコット」は、神埼から車で 30 分ほど東へ行った鳥栖(とす)にあり、和風の出汁(だし)をふんだんに使ったイタリアン、「和タリアン」が味わえる。

オーナーシェフ北見氏が手掛けるのは、佐賀やその近県の素材を使った健康志向な料理。丁寧に引いた昆布出汁や発酵食を積極的に取り入れ、化学調味料を極力減らす試みだ。築200年近い古民家に、センスが光るインテリアも見どころの一つ。

ある日の「リンコット」のランチ。オードブルには佐賀牛モモのローストビーフ、キッシュ、カポナータ、鶏団子など。
クリーミーなゴボウのスープ。
合い挽きミンチのボロネーゼ。
時がゆっくり流れるリンコットのランチタイム。

リンコット

佐賀県鳥栖市曽根崎町1311

0942-85-8158

Instagram @lincotto

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佐賀駅からほど近いスタイリッシュなビルの中にある「喰道 こが」は、生まれも育ちも佐賀の店主・古賀氏が、地元の食材を生かすアレンジを常に模索し続けるカウンター割烹。メニューは頻繁に替わり、半月でほぼ全てが入れ替わるため、いつ訪れても新鮮。地酒も多数取り揃えているので、料理に合ったものを薦(すす)めてくれる。

この店に行くなら、合わせてすぐ近くの県立図書館を訪ねたい。豊富な郷土史の中に佐賀の興味深い逸話を見つけるのは、宝探しのように価値のあるひとときになる。

「喰道 こが」のシオマネキの塩漬け(がにつけ)と豆腐。
平貝の貝柱、唐津のマグロ、クエの刺身。

ほくほくしたふろふき蓮根やハゼクチ(アナハゼ)の煮物。春には春玉ねぎや春あさりが登場し、日本酒も蔵開きして新たな味に出会える。

喰道 こが

佐賀県佐賀市中央本町10-5 AI ビルディング 2F

0952-22-1050

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出典『画図百鬼夜行全画集』鳥山石燕(角川ソフィア文庫)/『水木しげるの妖怪百物語 日本篇』水木しげる(二見文庫)/『風土記新編日本古典文学全集5』植垣節也(小学館)/『肥前國豊後國風土記考證』後藤藏四郎(大岡山書店)/『改訂肥前風土記の研究前編』(佐賀県立図書館蔵)/本の万華鏡第24 回ことのこと‒箏と箏曲‒ www.ndl.go.jp/kaleido/entry/24/2.html

取材・文・造形 森井ユカ

立体造形家/キャラクターデザイナー「ネコカップ」「ネゴ」のデザイン、ポケモンカードゲームのイラストレーション、粘土あそびセット『ねんDo!』のディレクションなどを担当。著書多数。

撮影 五味茂雄
編集 中野桜子

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