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「やきとり」を注文して出てきたのは豚肉!? 埼玉・乙姫伝説の町の肉料理

「やきとり」を注文して出てきたのは豚肉!? 埼玉・乙姫伝説の町の肉料理

ENTERTAINMENT 埼玉県

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ニッポン全国津々浦々、数千もの伝承があるとされる中から都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、独自の解釈で造形しました。

妖怪に誘われるがまま旅にでかける空飛ぶ百鬼夜行に、ようこそ。

乙姫

埼玉県をはじめ全国に伝承のある竜宮・乙姫伝説。寄居町では川から通じる竜宮城で乙姫からの秘刀を授かり、ときがわ町では椀を貸し与えられたなどの言い伝えが残っている。

ご利益:千客万来

川から繋がる竜宮城は古のパラレルワールド

川から通じる竜宮城に乙姫伝説あり。椀を貸し与えられた伝説も……

日本書紀の時代から語り継がれる丹後(京都)の昔話「浦島太郎」は、ほぼ全国民の心の中に浸透している。「亀を助けた浦島太郎が御礼にと竜宮城に招待される」ことから海限定のお話だと認識されがちだが、実は内陸の沢や川などからも竜宮にダイレクトにアクセスできるという伝承は数多い。

荒川から分かれる寄居町の深沢川に、乙姫の造形と共に訪れた。深沢川は昭和33年に町指定の名勝となった「四十八釜」(水の流れにより水底にできた窪を釜と呼ぶ)があり、その中の「船釜」が竜宮城に繋がっていたらしい。

大昔、この河原に住んでいた賽取左衛門(さいとりざえもん)の若妻が竜宮の使いであり、ある日突然故郷に帰ってしまう。後を追った彼は乙姫さまから歓待されたが、月日が経つうちに帰りたくなり「水切丸」という秘刀をもらい竜宮を去った。

一方ときがわ町では川の滝壷が竜宮城に通じており、振る舞い事があるときは乙姫さまが椀と膳を貸してくれるという話がある。このいわゆる木地屋(木製器物を作りながら全国を渡る職人たち)による「椀貸し伝説」も日本全国で聴かれ興味深い。

賽取左衛門が秘刀「水切丸」を預けたとされる正龍寺を訪ね刀のことを聞くと、宝の数々を所蔵した蔵は残るが中身はもう何代も前に消失したそうだ。もしかしたら、ここもまた竜宮城に繋がっているのかもしれない。

竜宮・乙姫伝説の故郷、深沢川の河原は変化に富み、異世界に通じていそうな趣きがある。
竜宮・乙姫伝説のある四十八釜の近く、鉢形城跡にある早咲きで知られる樹齢150年の巨樹、氏邦桜(エドヒガン)。3月末には満開に。

豚肉料理が盛んなグルメの町 乙姫が商店街の人気者

そんな伝説のある寄居町では、商工会のキャラクターも乙姫がモデルだった(その名も「乙姫ちゃん」という)。商店などのチラシや看板で大いにプッシュしているのは、町の特産品である豚肉。この地域では「やきとり」と書かれていても、当然のように豚肉がでてくるというのが面白い。

まずはカツ丼の名店「今井屋」。創業は明治40年でカツ丼を始めたのは昭和30年代。来客のほとんどが、この揚げたカツを秘伝のタレにくぐらせてご飯の上に載せるカツ丼(通称タレカツ丼)が目当て。卵は使わず衣はサクッと、中の肉は柔らかくジューシー。脂身少なめのロースは胃にもまったくもたれない。

今井屋のカツ丼は、味噌汁はなく付け合わせの漬物のみ。潔い佇まいで、じっくりとカツに集中できる。

今井屋

埼玉県大里郡寄居町寄居1236-1

048-581-0464

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乙姫と周遊する寄居の名店 豚肉からジビエの幸せ三角

続いて、寄居のホルモンならここ、と言わしめる「市川ホルモン」。昭和30年代に開業、当初はホルモンとレバーのみだったが現在は各種取り揃える。炭と七輪で炙(あぶ)る新鮮なホルモンに、この店独自の甘辛いタレがこの上なくよくなじみ、すっかりとりこになってしまう。

ホルモンは白、ハラミ、ナンコツ、レバー、カシラ、タン。お酒ならなみなみ注いだ焼酎に梅のシロップ、裏メニューの「梅割り」をぜひ。

市川ホルモン

埼玉県大里郡寄居町寄居959-1

048-581-0454

Google Map

さらに徒歩圏内で味噌漬けの豚肉で知られる店「肉のみねぎし」へ。寄居駅すぐ、昭和8年開業のお肉屋さんだ。代々伝わる自家製味噌に漬けたロースは、低温でじっくり柔らかに焼きあげると旨みが凝縮される。冷めても美味しくお弁当のおかずにも最適。お土産にも。

豚肉の味噌漬で残った味噌は、野菜炒めなどに使える。味噌の味は微調整を重ね、塩気をやや控えめにしてコクを増し、好評を博している。

肉のみねぎし

埼玉県大里郡寄居町寄居796

048-581-1377

Google Map

肉のみねぎしの隣に建つ「泊まれるオーガニックレストラン mujaqui」は、築100年ほどの物件をリノベーションし、2022年にオープンした。寄居の有機野菜に合わせる肉は鹿や猪などのジビエのみで、ワインもナチュールを多数揃えている。自然の循環をじっくり味わえるコース料理の後、そのままベッドに直行できるとはなんという贅沢だろう。もしかしてここが本当の竜宮城なのかもしれない。

(一枚目・二枚目)岩手県の鹿のローストには、赤ワインを加えてじっくり乾かした青ヶ島の塩を。(三枚目)テスタローリというイタリアで最も古いパスタに、秩父の鹿のミンチにレバーを入れたラグーを合わせた。

泊まれるオーガニックレストラン mujaqui

埼玉県大里郡寄居町寄居908

https://mujaqui.jp

Instagram @mujaqui

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取材・文・造形 森井ユカ

立体造形家/キャラクターデザイナー「ネコカップ」「ネゴ」のデザイン、ポケモンカードゲームのイラストレーション、粘土あそびセット『ねんDo!』のディレクションなどを担当。著書多数。

出典
『日本の伝説18埼玉の伝説』早船ちよ・諸田森二(角川書店)
『埼玉県の民話』根津富夫(未來社)
『民族的世界の探究~かみ・ほとけ・むら~』(慶友社)
『埼玉県伝説集成上巻』(北辰図書出版)
寄居町公式サイト「深沢川の四十八釜」

取材・文・造形 森井ユカ
撮影 原ヒデトシ
編集 中野桜子

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