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おでん、ふぐ……一寸法師が渡った道頓堀を妖怪グルメさんぽ:大阪

おでん、ふぐ……一寸法師が渡った道頓堀を妖怪グルメさんぽ:大阪

ENTERTAINMENT 大阪府

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ニッポン全国津々浦々、数千もの伝承があるとされる中から都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、独自の解釈で造形しました。

妖怪に誘われるがまま旅にでかける空飛ぶ百鬼夜行に、ようこそ。

一寸法師

日本で最も有名な昔話のひとつ。大阪で生まれた身長一寸(約3cm)の一寸法師はお椀に乗って上京し、鬼退治を果たした後、要職に就く。似たような言い伝えが青森から鹿児島まで広く分布している。

ご利益:立身出世

お椀の舟に箸の櫂
あの有名人は大阪出身

「一寸法師って妖怪だったの?」と驚かれるが、これは筆者独断の分類。そもそも妖怪とは人知の及ばぬ不思議な現象や存在のことを言い、なにも恐ろしい存在であると限ったことではない。特に日本の妖怪は芸の幅が広く、エンタメやマーケティングのために生まれたものも数多い。

一寸法師のお話は江戸時代に刊行された短編集『御伽草子(おとぎそうし)』の中にあり、ユニークな姿とハッピーエンドの出世物語が鮮烈な印象を残し、語り継がれてきた。とはいえ彼の故郷が大阪であることは意外と知られていない。

あらすじとしては、子を切望した夫婦が住吉大明神(住吉大社)に参詣し、やがて一寸(約3cm)の男の子を授かった。一寸法師と呼ばれた彼は、やがてお椀の舟、かいに箸の櫂、針の刀を携えて京を目指す。16歳で姫君と駆け落ちし、その先で鬼を退治。手に入れた打出の小槌で大きく成長し子宝に恵まれ、末代まで栄えたというストーリーだ。

大阪府立中央図書館で1600~1700年代の大阪の古地図を広げ、一寸法師が京に向かった航路を検証した。住吉大社付近の難波(なにわ)の浦(うら)(大阪湾)から京都に行くにはいくつかのルートがあるが、(希望も込めて)木津川→道頓堀→東横堀川(とうよこぼりかわ)→大川→淀川と考え、赤い椀に乗った一寸法師の造形とともに、道頓堀から東横堀川を辿って見た。

1800年の昔に建立された住吉大社。境内の種貸社には一寸法師の逸話を伝える小さな像と、入れば誰でも一寸法師になれる大きなお椀がフォトスポットとして置かれている。

住吉大社

〒558-0045

大阪府大阪市住吉区住吉2-9-89

TEL:06-6672-0753

GoogleMap

大航海に思いを馳せる
冬の味覚あふれる道頓堀

一寸法師がお椀の舟で遡ったであろう道頓堀の歴史は、思ったより古く、慶長17年(1612年)の着工。巨大なネオン看板の前を通過する遊覧船に、外国人観光客とともに乗ってみた。小さな椀でこの水面を航行したと思うと、どんなに壮大な計画であったかがよくわかる。

道頓堀の東の突き当たりを北へ流れる東横堀川から大川に出るまでの2kmを川沿いに歩いてみた。地図上では高速道路に隠れているが、名建築といえる橋が続く見応えのあるコースだ。

さて道頓堀に戻り、浮世小路にある、日本で一番小さな神社『一寸法師大明神』を参拝。以前はこの小路から店の裏口に通じていたという、ぜんざいの老舗『夫婦善哉(めおとぜんざい)』へ。二つのかわいい椀を手に取り、またも大航海に思いを馳せる。

見目麗しい『夫婦善哉』の対のぜんざいに心底ホッとする。小さな器に入ったぜんざいは、2つセットで一人前。

夫婦善哉

〒542-0076

大阪府大阪市中央区難波1-2-10法善寺MEOUTOビル

TEL:06-6211-6455

GoogleMap

夫婦善哉のすぐ近くに日本最小の神社『一寸法師大明神』が。

道頓堀沿いで一際目立つ『たこ梅』本店は1844年開業、日本一古い関東煮(かんとだき)(おでん)のお店。「昭和24年からは1cmも動いていません」とは店長の頼もしいコメント。ほんのり甘く味わい深い大根と、創業時からの人気メニュー、タコの甘露煮を噛めば、大阪にいる喜びが込み上げてくる。

『たこ梅』の必食メニュー、タコの甘露煮(右)とおでん(左)。

錫の徳利とお猪口で飲む日本酒は口当たりが一味違う。道頓堀の代名詞的存在に、地元客と観光客の両方が詰めかける。予約が安心。

たこ梅 本店

〒542-0071

大阪府大阪市中央区道頓堀1-1-8

TEL:06-6211-6201

GoogleMap

そして秋冬の大阪といえばふぐ。『夫婦善哉』の並びには世界展開するとらふぐ料理専門店の『玄品』の総本店がある。少し先の本町の店舗では、2023年6月から始まったここだけの『女将のカウンター』で、絶品尽くしの「お任せ天然とらふぐコース」がいただける。女将によると、『玄品』では件の住吉大社でふぐ供養をしているそうだ。こういうご縁が見つかるから、妖怪さんぽはやめられない。

世界69店舗の支店がある『玄品』の中でも、本町だけのとっておき『女将のカウンター』。

『玄品』代表の山口久美子さん自らがカウンターに入る。隣に立つのは娘さん。

捨てるところがないといわれる通り、天然とらふぐの全てを食べ尽くす、そして飲み尽くす至福のメニュー。1枚目からふぐ刺し(てっさ)、唐揚げ、焼きふぐ、こだわりの塩梅で炊き上げるふぐ飯、ヒレ酒。他にも白子、てっちりなど目白押し。

玄品 本町 ふぐ・うなぎ・かに料理

〒451-0054

大阪府大阪市中央区南本町3-2-17

予約センターTEL:0120-412-948

『女将のカウンター』の営業は金土、12月のみ木(要予約)。

GoogleMap

森井ユカ

立体造形家/キャラクターデザイナー ポケモンカードゲームのイラストレーション、小麦粘土セット『ねん Do!』のディレクションなどを担当。著書多数。

出典:『すみよっさんの境内と石燈籠』住吉大社(清文堂)/『御伽草子(下)』市古貞次校注(岩波文庫)/『大川と大阪市内河川』(琵琶湖・淀川水質保全機構)/『日本昔話ハンドブック』稲田浩二・稲田和子(三省堂)/大阪府立中之島図書館特別展示『道頓堀展』リーフレット

取材・文・造形 森井ユカ
撮影 原ヒデトシ
編集 中野桜子

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