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兵庫・神戸の伝説「黄金の鶏」 わずか10分の不思議な祭りと絶品グルメを巡る旅

兵庫・神戸の伝説「黄金の鶏」 わずか10分の不思議な祭りと絶品グルメを巡る旅

ENTERTAINMENT 兵庫県

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数千もの伝承の中から、都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、造形作家森井ユカの独自の解釈で創造しました。妖怪に誘われるがまま旅すると、美味しいもの、きれいな景色に必ず出会える!? ようこそ、空飛ぶ百鬼夜行へ。

黄金の鶏

神功皇后(じんぐうこうごう)が朝鮮から持ち帰ったつがいの黄金の鶏。唐櫃(からびつ)に埋め「村の危機に掘り起こすもの」とされ、その姿は記録されていない。立春に鳴き声を上げるという不思議な言い伝えもある。

ご利益 平穏無事

日本で最も短い祭り?安息の日々を祈念する

日が暮れて荘厳な存在感が醸し出される下唐櫃山王神社。

その時間わずか10分間ほど……神戸駅から北に20kmほどの下唐櫃山王(しもからとさんのう)神社に、不思議な祭りを観に行った。遥か昔、神功皇后(じんぐうこうごう)が朝鮮から黄金の鶏をつがいで持ち帰り、唐櫃(からと)に納め「村民危急の際に掘り起こせ」と言い残した。

その後、立春にこの鶏の鳴き声が聞こえるようになった……という謂(いわ)れから、毎年節分の日に「東天紅(とてんこう)」という非常に短い祭りが執り行われている。(実際に鶏を埋めたとされるのはここから徒歩15分ほどの唐櫃石(からたといし)神社)。 夕刻、神社に神饌(しんせん)が用意され、ほんのりと灯(あか)りがともる。

神主の親戚縁者、近隣の人々数十人が見守る中で神事が執り行われる。(年により日程、開始時間は異なる)

あっという間に終わると聞いたので固唾(かたず)を呑(の)んで見守る中、神主が神前に位置し、2人の子どもがその後ろ左右に円座を敷いて座った。神主が祝詞(のりと)をあげると、向かい合った子どもの雄鶏(おんどり)役(右)が「トッテコロ!」と言い、もう一人の雌鶏(めんどり)役(左)の子どもが「クークー!」と返す。これを繰り返したところで全てが完了、黄金の鶏が眠ることを静かに祝った。 子ども達はおひねり(袋に入ったご褒美)をもらい、親の元に駆け戻る。ちなみに彼らは兄弟で、ちょっと緊張はしていたものの、家でしっかり練習してきたため、立派に大役を果たせた。

鶏を掘り起こそうとした人々に災いが起きたという言い伝えもある、生き物のようなそうでないような、曖昧(あいまい)な存在。筆者の想像で造形した鶏を大切に携え、神戸の街へと向かおう。

林の中にひっそりと佇む、黄金の鶏が埋められたとされる唐櫃石神社。高さは1mほどでフェンスに囲われている
下唐櫃山王神社の鳥居の上には小石が無数にのっていた
丸い餅は神事の後に振る舞われる。もちろん、絶品

下唐櫃山王神社

兵庫県神戸市北区有野町唐櫃536

時を超える名店と妖怪の伝説を訪ねる兵庫

伝統的な祭りを観た後は、歴史ある店を訪ねたくなる。神戸三宮駅からすぐの「欧風料理 もん」は1936年創業。数十年通う常連も多く、定番の洋食の味をしっかり守り続けている。格式ある木製の調度品に囲まれた店内は、古き良き昭和にタイムスリップしたかのよう。メニューは豊富で、決めるまでに時間がかかってしまうが、それがまた何度も来ようという気にさせる。

看板料理のビーフカツレツには神戸の洋食が守ってきた味が凝縮されている

ビーフのマカロニグラタン。想像を裏切らないクリーミーな風味

欧風料理 もん

兵庫県神戸市中央区北長狭通2-12-12

078-331-0373

神戸は味噌ダレ餃子が美味(うま)い街。立ち寄ったのは「ぎょうざ専門店 赤萬 三宮店」。開業して約60年、こちらも頑(かたく)なに初代の味を踏襲している。小ぶりでほんのり甘いキャベツの餃子は言わずもがな、自家製の味噌ダレとラー油がその風味を盛り上げる。味噌ダレ2、ラー油と醤油が各1というバランスをすすめられたが、自分で黄金比を探るのも楽しい。餃子とビールだけという潔さも清々しく、持ち帰りの客も絶えない。

自家製ラー油と味噌ダレはテイクアウトでもしっかり付いてくる
1人前は7 個、注文は2人前から。一人で2人前でもするりと入る
創業時から変わらないしっとりとした中身
のれんを出せば待ってましたとばかりに客がやってくる(ぎょうざ専門店 赤萬 三宮店)

ぎょうざ専門店 赤萬 三宮店

兵庫県神戸市中央区北長狭通2-2-1

078-331-0831

最後は長田(ながた)区で1957年創業の「お好み焼 青森」へ。ここでは長田のソウルフードとなった「そばめし」が目当て。焼きそばを作っていたところに客が白米を持ち込み、一緒に焼き上げたものが定番化したという。麺とご飯にぼっかけ(牛肉とこんにゃくの煮込み)とキャベツを投じ、長田産のばらソースで和え、鉄板でリズミカルに刻む。カンカンと響く音を聞きながら飲み、そしてそばめしを食べている間に、お好み焼きができていく。

福崎駅まで足を延ばせば、『妖怪談義』が著名な民俗学者・柳田國男(やなぎだくにお)の生家と記念館があり、駅から25分の道中には数多くの妖怪オブジェが点在している。不思議な話と美味しいものにとことん癒されたいなら、兵庫県へ。

定番のお好み焼きは「かすすじ焼き」。このままでも、追いソースで自分好みにしても

この店ならではのそばめし焼きが目の前で細かく切り刻まれる至福の時間

気負わぬ店主の素朴な温かさが漂う

お好み焼 青森

兵庫県神戸市長田区久保町4-8-6

078-611-1701

取材・文・造形 森井ユカ

立体造形家/キャラクターデザイナー ポケモンカードゲームのイラストレーション、「コネコカップ」「ネゴ」のデザイン、粘土遊びセット『ねんDo!』のディレクションなど。著書多数。

参考
『神戸の神社』兵庫県神社庁神戸市支部・編著(神戸新聞出版センター)

撮影 五味茂雄
編集 中野桜子

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