富山のとろける白エビに誘われて センポク・カンポク伝説と極楽グルメ巡り
数千もの伝承の中から、都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、造形作家森井ユカの独自の解釈で創造しました。妖怪に誘われるがまま旅すると、美味しいもの、きれいな景色に必ず出会える!?ようこそ、空飛ぶ百鬼夜行へ。
センポクカンポク

南砺(なんと)市に伝わる妖怪。大きなヒキガエルのような体に人の顔。人が亡くなるとやってきて3週間そばで番をし、4週間目に死者の霊を墓場へ道案内するといわれる。センポクとカンポクの2匹がいるという説も。
ご利益 身上安全
生と死の境界へ導く 南砺の山に潜む妖怪
アニメ『妖怪ウォッチ』にも登場しているため、全国的に知られている富山県南砺市の妖怪。水木しげるの『決定版日本妖怪大全妖怪・あの世・神様』によると、姿はヒキガエルのようなもので、死者の家で3週間付き添い、4週間目に墓場に案内するという。生と死の間の存在というのがいかにも妖怪らしい。
今回も県立図書館所蔵の郷土史から伝承を探す。こういった郷土史はデジタルのアーカイブになっていないものも多く、現地で新たな情報が見つかるとゾクゾクするほど感動する……この瞬間のために図書館を訪ねるといっても過言ではない。
南砺市の、おそらくは100年ほど前から伝わる昔話の聞き取りをまとめたらしき書籍をひもとくと、センポクとカンポクは別の存在であるという話も見つかった。センポクはカッパの顔をしたガマガエル。カンポクはカッパの顔に岩魚(いわな)の体、ヒレを使って山を歩くということで、一層ミステリアスな存在になった。
道案内をするセンポクカンポクの姿を造形し、富山へ。南砺市山中の伝承地は残念ながら険(けわ)しい山道のため、遠巻きに近くの県道を通る。暗い茂みの中の岩や土は、センポクやカンポクに見えなくもない。遠くには常に壮大な立山連峰が横たわり、桁(けた)外れのスケールには畏敬(いけい)の念を禁じ得ない。南砺の次に目指すは、白エビの旬に沸く富山市内だ。

富山空港 展望デッキ
富山県富山市秋ヶ島30
とろける白エビを追って妖怪が導くこの世の極楽
妖怪センポクカンポクを追ってやってきた富山。白エビの旬は長く、秋まではパラダイスが続く。富山以外にも広く分布はしているが、産業になるほどの漁穫量を誇るのは、「藍瓶(あいがめ)」と呼ばれる深い海底に栄養豊富な深層水が湧く富山湾ならではで、これが目当ての観光客も多い。白エビを求めて、歩いて回れる名店を訪ねてみた。
筆者が十数年ほど前に初めて富山を訪れたときに心底衝撃を受けたのが昆布〆(こぶじめ)だった。肉厚な昆布で白身魚やホタルイカ、そして白エビなどを巻き一昼夜置くもので、昆布の滋味と旨みがじんわり染み込む。江戸末期から魚屋を営んできた老舗「志満屋」では多種多様な昆布〆が揃い、ホテルの部屋で味わってもよし、また自宅まで持ち帰ってもよし。


志満屋


浜焼き浜風
そして「金泉(きんせん)横丁」へ。「金泉」「銀泉」「銅泉」「金泉別館」と趣の異なる落ち着いた空間で、ゆっくりと富山の幸を味わえる。スタートの白エビの唐揚げには悶絶(もんぜつ)。富山といえばのブラックラーメンや牛すじ煮など、郷土料理の金泉風アレンジも抜群で、部屋を変えて何度も来たくなる居酒屋だ。

味わい深い横丁には期待しかない



金泉横丁
「立ち喰い鮨 人人(じんじん)」はミシュラン一つ星の「鮨し人」大将、木村泉美氏が2023年にオープン。新鮮で本格的な富山の寿司を気軽に楽しんでもらうため立ち食いカウンターが設けられている。比較的リーズナブルな価格のコースもあり、通し営業の中、ひっきりなしに客が訪れる人気店だが、もちろん椅子席のカウンターや個室もある。濃厚な海の幸は赤酢のシャリによく合う。この世の極楽とは富山のこと、妖怪の道案内に感謝する。






立ち喰い鮨 人人
参考
『決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様』水木しげる(講談社文庫)
『南砺拾遺集』石畠正一(富山県立図書館蔵)
取材・文・造形 森井ユカ
立体造形家/キャラクターデザイナー ポケモンカードゲームのイラストレーション、「コネコカップ」「ネゴ」のデザイン、粘土遊びセット『ねんDo!』のディレクションなど。著書多数。
撮影 原ヒデトシ
編集 中野桜子
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