日本最大の妖怪はその大きさ2000m以上!?長野の山、池、湖を巡り、戸隠蕎麦と善光寺食べ歩きを堪能!
ニッポン全国津々浦々、数千もの伝承があるとされる中から都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、独自の解釈で造形しました。
妖怪に誘われるがまま旅にでかける空飛ぶ百鬼夜行に、ようこそ。
だいだらぼっち
日本の各所に伝承が息づく巨大な妖怪。山を動かし、歩いた跡には湖ができるほどの大きさということで、その姿の解釈も多岐にわたる。起源は奈良時代の書物にあるとされるが、定かではない。
ご利益:大願成就
日本最大の妖怪を追う 水の恵みに触れる旅
最も大きな妖怪のひとつ、だいだらぼっち。日本各地に伝承があり、巨人の姿で描写されることが多い。長野では「頭は雲の上、善光寺と戸隠を同時に眺め、足跡は湖になり、飯縄山(いいづなやま)より高い」ということから身の丈2000m以上、力も相応にあるため山そのものの姿と解釈して造形した。各地の郷土史を繙(ひもと)けば、幼児性が残る温厚な性格、自然を愛し地理を司(つかさど)る神のような存在であることがわかる。
姿の起源は絵本『異魔話武可誌(いまはむかし)』(1790年)に「肥前国市坊主(ひぜんのくにいちぼうず)」として描かれた山をまたぐ大入道だとされるが、そのはるか昔、奈良時代の『常陸国(ひたものくに)風土記』などに巨人伝が登場し始め、各地に伝播したと思われる。民俗学者柳田國男によると、富士山を背負えなかったため地団駄(=だいだら)を踏みいくつもの湖ができたとの話もある。ぼっちとは法師(僧侶)のことだ。
まずはだいだらぼっちを語源とする大座法師池(だいざほうしいけ)を訪ねる。飯縄山を持ち上げようと踏ん張ったときにできた足跡とされる湖で、形は確かに足跡に似ている。湖畔に2022年にリニューアルした、長野の食とアクティビティを存分に楽しめる複合施設『nagano forest village』のウッドデッキでだいだらぼっちの大きさを想像すれば、楽しいことこの上ない。
上空から見ると足跡形をしている(下図参照)大座法師池。長径約500m、遊歩道で一周するには20分ほどかかる。
nagano forest village
妖怪が見る先は美味(うま)いものに溢れている
大座法師池から車で1時間弱、だいだらぼっちの足跡でできたとされる、青木湖、中綱湖、木崎湖の三湖へ。妖怪がここまでのっしのっしと歩いてきたのかと思うと感慨深い。どこも息をむような美しさで、特に中綱湖の湖面の映り込みには、文字通り足を延ばす価値がある。
湖面の映り込みが美しい小さな中綱湖、水上アクティビティが盛んな青木湖、木崎湖。
そしてだいだらぼっちが見渡したとされる戸隠から善光寺で腹ごしらえ。日本三大蕎麦のひとつである戸隠蕎麦は、美しい水と涼やかな気候から生まれる繊細な蕎麦。迫力ある暖簾(のれん)と仏像に惹かれた『仁王門屋』で絶品の戸隠蕎麦を堪能する。戸隠独特の「ぼっち盛り」はだいだらぼっち由来か?と思いきや、語源については、ひとりぼっちの修行・小高い山を指す言葉・薪の縛り方など諸説あった。
戸隠蕎麦ならではの盛り付けである「ぼっち盛り」。美しいだけでなく食べやすい。
『仁王門屋』の店頭で異彩を放つのは、アーティスト谷村紀明氏による仏画の暖簾。蕎麦はもちろんのこと、蕎麦のソフトやシュークリームなどスイーツも絶品!
仁王門屋
善光寺は創建から約1400年、一光三尊阿弥陀如来(いっこうさんぞんあみだにょらい)をご本尊としている。江戸時代から参拝客が引きも切らない人気の寺で、長野の名産品を扱う参道の飲食店でアップルパイ→おやき→栗のパフェ→コロッケと食べ歩く。季節により味も変わるためいつも新鮮な印象だ。
だいだらぼっちを追えば、美味しいものに辿り着く。各地に飛んでそれぞれの伝説を訪ねてみるのも面白いかもしれない。
善光寺、食べ歩き
信州の素材にこだわって焼き上げた、やさしい甘さの信州カスタードアップルパイ。
信州りんご菓子工房 BENI-BENI
「信州牛野沢菜」など、皮厚で食べ応えのあるプレミアムおやきが人気。珍しいジビエおやきも。
あづみ堂 漬物老舗髙橋 善光寺仲見世通り店
食べ歩きに最適なカップ入り「できたてモンブランパルフェ」は、栗風味しっかりで甘さは控えめ。
信州里の菓工房
細長い「信州牛コロッケ」は学生時代を思い出す素朴で飽きない味。店の奥にはシックなバーが!
いづみや民藏
森井ユカ
立体造形家/キャラクターデザイナー ポケモンカードゲームのイラストレーション、小麦粘土セット『ねん Do!』のディレクションなどを担当。著書多数。
出典:『異魔話武可誌』勝川春英・勝川春章/『妖怪 談義』柳田國男(講談社学術文庫)/『だいだらぼっち伝説』飯綱高原観光協会/長野市公式チャンネル戸隠そばの「ぼっち盛り」って何?/善光寺公式サイト
取材・文・造形 森井ユカ
撮影 原ヒデトシ
編集 中野桜子