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ANA Green Jetで出会ったNikon×ANAグループのESG経営

ANA Green Jetで出会ったNikon×ANAグループのESG経営

ANA REPORT 対談

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株式会社ニコン 代表取締役 兼 社長執行役員
馬立 稔和

ANAホールディングス 代表取締役社長
芝田 浩二

この対談は、2023年3月1日、羽田空港格納庫にて行われた。背後に見えるのが、ANAがニコンのリブレットフィルムを試験装着し運航する特別塗装機「ANA Green Jet」。燃費改善やCO2排出量削減への寄与が期待されている。

「いや~、楽しかった。今日は『撮影もするから笑顔で』と言われておりましたけど、気づけば自然と笑顔になっていました」
対談後、ANAホールディングスの代表取締役社長・芝田浩二が笑みを浮かべると、株式会社ニコン代表取締役 兼 社長執行役員・馬立稔和氏も、こう応じてみせた。
「私もです。じつは、今日は私の誕生日なんです。最高の誕生日を迎えられたと思っています」
対談の舞台は羽田空港に隣接する巨大格納庫。二つの企業のトップは、まるで少年のように目を輝かせていた。

昨年10月、ANAは「ANA Future Promise」をテーマとした特別塗装機「ANA Green Jet 」を就航。サステナブルな素材を使用した機内サービス品(機内食容器の一部や機用品など)の活用や、CO2排出抑制を目的とした運航オペレーションなど、さまざまな施策を展開している。なかでも注目されるのが、ニコンの技術協力のもと新たに導入された「リブレット技術」。機体表面の一部にサメ肌を模し、微細な三角形の凹凸構造を施した特殊なフィルムを貼り付けたのだ。試算では、機体表面の80%にフィルムを装着した場合、燃費を約2%改善できるという。

その、革新的な技術協力で生まれたANA Green Jet の前で、二人の対談はスタートした。

「カメラ好き」と「エアライン好き」

ANA Green Jet内にて。

芝田:私は幼いころから大のカメラ好きで。最初にカメラを持ったのは中学1年、父親が使っていたミノルタでした。大学時代に自分でもカメラを買いましたが、そのときもミノルタを。店の棚にニコンもあったんですが、高額で学生の私には手が出ませんでした。

馬立:そうでしたか。

芝田:その後、全日空に入社しても、学生時代に買ったカメラを使い続けていましたが。1995年、APEC大阪会議のときに、ご縁があって弊社のトップが、中国の要人と面会する機会に恵まれて。なんと、その会談の記録写真の撮影という大役を、私は任ぜられたのです。

馬立:それは、責任重大ですね。

芝田:そうなんですよ。自分のカメラではどうにも心許なくて、新聞社の写真部にいた友人に頼み込んで借りたのが、当時の御社のフラッグシップ「F4」。これが、私とニコンとの邂逅(かいこう)です。連写でパパパパッと撮影したんですが、現像して仕上がった写真が感動的に美しくて。これを機に、私は自分でもニコンの「F100」を買いました。以来、私はニコン一筋です。

馬立:嬉しいですねぇ。弊社のカメラ、使い勝手はいかがですか?

芝田:非の打ち所がないと、個人的には思います。「絶対品質」という言葉がまさに当てはまる。とにかく、使っていてワクワクする。メカ好きにはたまりません。作り込みが安心感すら与えてくれます。

馬立:過分なお褒めの言葉、本当にありがとうございます。芝田さんはカメラがお好きとのことですが、じつは、私はエアラインが大好きなんです。生まれは福岡県大牟田市ですが、幼いころから「乗ってみたいなぁ」と上空の飛行機を眺めて育ちました。初めて飛行機に乗ったのは、大阪の親戚を訪ねた小学生のとき、ボーイング727が就航してすぐだったと思います。それはもう、天にも昇る思いでした。

芝田:そうでしたか。

馬立:ニコンに入社して10年間ぐらいは、出張もそれほど多くなかったんですけれど、2000年を過ぎたころ、日本の顧客がアメリカに工場を建設しました。弊社とは深い関係性がありましたので工場の立ち上げのときには毎月のようにアメリカへ飛びました。ANAがNH1便、NH2便という便名をつけているワシントンへ頻繁に行ったんです。

芝田:私はその路線開設に深く携わりました。

馬立:あ、そうでしたか。それがANAさんとの関係性の始まりでした。ANAさんは機内がとても明るくて、私は好きでした。機内サービスもどちらかというと、カジュアルといいますか、とてもフランクで。私にはそれがとても良くて。ちょうど、マイレージも始まっていたので、瞬く間にプラチナ会員になりましたよ。

芝田:ありがとうございます。

馬立:その後、開発責任者になり、欧米とのやりとりが非常に多くなりまして。ANAさんがスターアライアンスへ初期から入られたというのが非常に大きかった。欧米各地へ行くときに、同じスターアライアンスの現地エアラインへの乗り継ぎがとてもスムーズで助かりました。その間、10年ぐらいはANAさんに沢山乗りました。ANAさんのために仕事をしてるんじゃないかと思うほどでした(笑)。

喫緊の課題はカーボンニュートラル

馬立:昨年就航されたANA Green Jetでは、私どものリブレットフィルムの実証実験をしていただくなど、ANAさんはさまざまなところでESGに資する事業を展開されている。これは本当に素晴らしいことだと思います。 

芝田:ありがとうございます。航空業界にとっては、カーボンニュートラルというのは喫緊の課題です。そのための取り組み、対応にはいくつものアプローチがありますが、私がいちばん期待しているのが技術革新。その点ではご提供いただいたリブレット技術は、非常に革新的と思っております。データ上では2%のCO2削減に繋がるといわれておりますが、これはものすごく大きな数字。いまはまだANA Green Jet 2機だけですが、実証実験の検証をしっかり行い、他の機材にも展開をしていきたいと考えています。期待しております。

馬立:がんばります。学生時代からリブレット関連技術を研究テーマとしてきた者が、現在、弊社の開発担当をしております。原理的にはサメの肌の表面がどのようになっているのかを、長年研究してきたわけですが、野生動物のメカニズムを実現するというのは、自然との共生という観点で、ESG的にも非常に意義深いことと自負しています。この先、耐久性も含めて検証が必要なテーマではありますが、企業は社会に貢献してこそ成り立つと考え、長期的見地で取り組んでいきたい。航空機への技術提供、挑戦のレベルは非常に高いものですが、そこは我々も技術の会社、ハードルが高ければ高いほど、燃えますから(笑)。

芝田:我々が今回発表した中期経営戦略の中でも『ESG経営』を掲げております。なかでも環境問題というのは我々、航空業界においては大きな課題、とりわけCO2削減に関しては、あらゆる手法を活用し、まっ先に取り組まなければならない。そのためには、当然、飛行機の性能向上も重要で、省エネエンジンの開発も必要です。また、弊社が積極的に取り組んでいるのが持続可能な航空燃料=SAFの導入。また、CO2を回収・吸収・貯留・固定化するネガティブエミッション技術(NETs)も積極的に活用し、排出量の実質ゼロを目指してもいます。そして、なによりも、ニコンさんからご提供いただいたリブレット技術。これも非常に魅力のある新しい技術。今回、ニコンさんのリブレットに出会えて私、個人的に「カメラ以外でもニコンさんに助けていただいたな」と、そんなふうに思っているんです。カメラも、リブレットも、接するとワクワクに繋がっていくのは、さすがニコンさんだと、感心しています。

馬立:ご期待に添えるよう、これからもがんばります。

うまたて としかず

株式会社ニコン 代表取締役 兼 社長執行役員。福岡県出身。1980年日本光学工業株式会社(現ニコン)入社。2005年執行役員、2012年常務執行役員、2019年より現職。

しばた こうじ

ANAホールディングス 代表取締役社長。鹿児島県、奄美群島の加計呂麻島出身。1982年全日本空輸株式会社入社。アライアンス室長、ロンドン支店長などを歴任。2022年より現職。

ANA Green Jetは、持続可能な社会の実現を目指す「ANA Future Promise」をテーマとした特別塗装機。サステナブルな素材を使用した機内サービス品(機内食容器の一部や機用品等)の活用や、CO2排出抑制を目的とした運航オペレーション等、さまざまな施策を展開している。

撮影・記録/深澤 明 文/仲本 剛