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三笘薫(サッカー日本代表)×井上慎一(ANA 代表取締役社長)特別対談 コツコツとした毎日が、ワクワクの未来を作る

三笘薫(サッカー日本代表)×井上慎一(ANA 代表取締役社長)特別対談 コツコツとした毎日が、ワクワクの未来を作る

ANA REPORT SPECIAL

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 「やはり『諦めない力』というものが、多くの人の感動を呼ぶ、そのことを昨年のワールドカップで、私は改めて実感しました。そこで、弊社としてぜひ、その感動的シーンを生んだ選手と契約させていただきたいと、そういう思いに至った次第です」

精悍なマスクの若い男性を前にして、井上慎一・ANA代表取締役社長はこう言って顔をほころばせた。

ANAは今年6月、イングランド・プレミアリーグのブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンFCでの活躍も目覚ましい、日本代表MF・三笘薫選手と、スポンサー契約を締結した。

そこで今回、この契約締結を記念して「三笘選手×井上社長」の〝特別対談〟を送る。

世界をワクワクさせた「三笘の1ミリ」

井上:冒頭でも触れたように、今回、私どもが契約させていただいた大きな理由――、それは、三笘選手がよくお話しになっている「諦めない力」「夢を叶える力」、こういった言葉に私自身、感銘を覚えていたからです。そして、その言葉が体現されたシーンというのが、あのワールドカップでの「三笘の1ミリ」だったと、私は思うんです。三笘さんは、あれから何度も、あのシーンについて聞かれていて、もう飽き飽きされているとは思いますが(笑)。

三笘:いえいえ、大丈夫ですよ(笑)。

井上:じつはあの場面、私は各国の航空会社の幹部が集まる会議に出席するためスイス・ジュネーブにいて、会議メンバーとの会食のさなかに見ていたんです。私のすぐ後ろには、日本代表が予選リーグで勝利した、ドイツの航空会社の方、隣には韓国の航空会社の方がいらっしゃいました。韓国の方とは「私たちの代表は決勝トーナメント、いけますかね?」なんて話をしながら。もう、食事どころじゃなかった(笑)。そんなときにちょうど、日本代表のスペイン戦がキックオフになって。皆、スマホに釘付けで(笑)。

三笘:そうだったんですね。

井上:そこで飛び出したのが三笘さんの、あの折り返しのパスだった。その場にいた人たちは口々に「あの粘りはすごい!」とか、「日本代表の諦めない心は素晴らしい」と、もう称賛しきりでした。そして皆が「ミトマ、ミトマ」と口にしていた。世界の航空業界をリードする人たちが、三笘さんのプレーに驚嘆し、ワクワクしているのを、私は目の当たりにしたわけです。その経験が今回、私どもが契約を申し入れさせていただいた根底にあるんです。三笘さんとともに、ワクワクした世界を作りたい、そう思ったんです。

三笘:ありがとうございます!

井上:いや、それにしてもすごかったですよね、あのパスは。サッカーは国を超えて人の心を動かす共通言語だと、周囲の皆さんの盛り上がりを見て実感しましたよ。あ、一人だけ、私の前に座っていたスペインの航空会社の方だけは、ガックリと肩を落としてましたけど(笑)。

三笘:あははは、スペインの方なら、それも当然でしょうね(笑)。

冷静に自分を見つめ、選んだ大学進学

井上:今回、お会いする前に経歴を拝見したんですが、三笘選手は高校卒業時、所属していた川崎フロンターレのトップチーム昇格を打診されながら、それを断って大学進学を選択されたんですよね?

三笘:そうです。

井上:そのときの率直なお気持ちというのをお聞きしたいのですが。

三笘:やはり、自分的にまだ、トップチームに進むための準備ができていないな、そう感じていたんです。それは身体的にも、精神的にも。それで、遠回りと思われるかもしれませんが、大学でもう一段、自分を高めて、それからJリーグに挑戦したほうが、結果的にはいい方向に進むんじゃないか、そう考えたんです。

井上:なるほど……。でも、目の前でトップチームの扉は開かれていたわけですよね?いっぽうで、大学の4年間を経て、改めてトップチームに入れる保証はなにもないわけで。その点の不安はなかったんですか?

三笘:もちろん、それは考えました。でもそこで、Jリーガーになれなかったとしたら、自分はそこまでの選手だったということ、そう思っていました。

井上:そこまでのご覚悟で?

三笘:もちろん、大学卒業時にはいろんなチームからオファーが来ると信じていましたし、それだけ成長しないといけないと、自分に言い聞かせてはいました。いっぽうで、サッカーだけが人生ではないとも思っていたんです。大学に行っていろんなことを学ぶことも、自分の人生には必要なことと考えました。

井上:そういう強い決意を持っての大学進学だったんですね。そして進学された筑波大学でサッカー、とくに三笘選手の代名詞ともなっているドリブルを検証し、これまた大いに話題になった卒業論文という形にまとめられた。そうそう、その卒論、イギリスで最近、英訳されたものが出回っていたそうですね?

三笘:そうなんですよ。いったいどこから流出したのか(苦笑)。そんなに、大した論文でもないんですけど。

井上:いやいや、ご自身の武器であるドリブルを、さらに客観的な視点を加えて検証、分析され、進化させたというのは、本当に素晴らしいと思います。

三笘:ありがとうございます。

選手の背中を押す失敗を恐れない文化

井上:現在、三笘選手はイングランドでご活躍中ですが、「世界最高峰」とも称されるプレミアリーグの、率直なご感想は?

三笘:そうですね、自分も以前は、プレミアリーグのチームや選手のことを、雲の上の存在と言いますか、憧れを持って見ていました。でも、実際になかに入ってみれば、同じサッカー選手ですし、同じ人間なので。そこで、ディスアドバンテージを感じることはそんなにありません。自分ができることもたくさんあるとわかりました。もちろん、サッカーファンなら誰もが知っているような選手が大勢いますから、対戦する際のモチベーションはすごく高いです。そんな環境下で日々、課題を見つけながらサッカーに取り組んでいます。

井上:Jリーグとの違いはありますか?

三笘:僕はJリーグとベルギーリーグ、そしてプレミアリーグと、三つのリーグを経験していますが、それぞれに良さがあると思います。Jリーグはやっぱり技術的な部分がすごく高い。ただ、海外リーグはスピードをより重視していて。とくにプレミアリーグは身体能力の高い選手も多く、縦へのスピードがものすごく速い。そこは、Jリーグとは違う部分です。それと、ゴールに対する意識が日本より高い。選手はどんどんシュートを打ちますし、たとえ外したとしても、サポーターもシュートを打つことを後押しする。積極的なプレーを、強く求められるんです。そこは、Jリーグとは少し差があるかな、と思います。

井上:失敗を怖がらず、どんどんやれと?なんだかビジネスの世界にも通じる気がしますね。

三笘:そうですよね。

井上:失敗することや、万一の場合に責任を追及されることを気に病むあまり、スピード感が失われてしまう……、これって、かつての日本企業や日本のビジネスパーソンの、ウィークポイントとされていた点ですからね。

三笘:ヨーロッパはサッカーが文化として根付いているので。観客席からはプレー一つひとつに対して、拍手やブーイングが起こります。その点、日本はまだ文化というよりはエンターテインメント性が高いというか。それもいいとは思いますが、サッカーが文化として存在するヨーロッパ的な部分をもっと吸収できたら、日本のサッカーももっと進化できる気がしています。

夢を叶えるコツコツとした努力

井上:三笘さんは今年6月に『VISION 夢を叶える逆算思考』(双葉社)という本を上梓されました。読ませていただいて感心したのが、三笘さんは「後世に語り継がれる選手になる」という大きな目標をまず立てて、そこに向かうために「いま、どうすべきか」を常に考えてこられたと。これは、我が身を振り返っても、なかなかできることではないぞと思ったんです。そういった思考法を始めたのはいつごろからですか?

三笘:小学校の3年とか、4年のころです。「将来、こうなりたい」という目標を設定して、「そのために、何歳までにこれをやる」というのを書き出したんです。当時、そのような指導を受けたのがきっかけで、そういった思考法になりました。当時は、ずっとサッカーノートを書いていて。日々を振り返りつつ、次は何をするかを考え、自分の現在地を評価する、ということを繰り返してきました。

井上:素晴らしい!それから、ご本のなかでは、子どもたちへのメッセージとして「自分の武器を持て」と書いてますね。私自身、学生時代は体育会系に身を置きましたが。当時は苦手を克服し、全般的な成長を是としていたように思います。ところが、三笘さんは得手不得手のうち、得意分野を伸ばすことを提唱している。そういう考えに至った契機はなんですか?

三笘:そうですね、やっぱりレベルの高いリーグに進めば進むほど、どんどん競争が激しくなって。そういうなかにいると、自分の武器が必要だと痛感するようになったんです。どうしても、他人と比べてしまう自分もいるんですが、でも平均的な選手を目指してしまうと、どこか自分に足りない部分、負けている部分をフォーカスしてしまいがちで。そこに、一つ大きな武器があって、その武器を軸として「自分はそれだけは負けない」と思えれば、また違った攻略アプローチの仕方も見つけられる。自分の芯というか、自信が持てることで、欠点も徐々に補完できるようにもなると思うんです。そういう意味では、武器というのは僕にとってプロのサッカー選手として生きていくうえで、真ん中にあるもの、そう感じでいます。

井上:三笘さんの考え方は、とてもいまの時代にフィットしているように思います。じつは、弊社も求人採用にあたって、かつては人材を全般的に見ていたんですが、いまはマーケティング系とオペレーション系、二系統に分けて採用しているんです。やっぱり人には得手不得手があって、それぞれの強みを活かせるよう、個性にあった選択肢を求人採用の面でも提供しようと、そういうふうに考えたわけです。

三笘:一人ひとりの全体値って、やはり限界があると思うんです。それぞれの人が持っている素晴らしい武器、その最大値を出すことができれば、そして、皆が互いに補完し合うことができれば、チームとしてもより強くなる、チームの全体値も上がっていくんじゃないでしょうか。

井上:いや、本当に、その通りだと思います。また、本では「毎日の努力を積み重ねる」という提言もありました。少しずつ努力していくことでしか、成長はできないと。これは、ご自身の実感としての言葉ですか?

三笘:はい。コツコツやってきたという自負はあります。毎日の一歩一歩は決して大きくはなくても、しばらく経って振り返ってみると、はるか遠くまできたんだな、と思える。それが正直な自分の実感なんです。

井上:日々の積み重ねを続けていくことは、簡単なようで難しいですよね。三笘さんが長く続けてこられたのは「後世に語り継がれる選手になる」という大きな目標があればこそですか?

三笘:そう思います。やはり、目標を持つことによって、後悔のない人生を送りたいと強く思えるようになりましたから。

井上:やはり、まずは目標を掲げるということが、それぞれの人生においても本当に大切なんですね。いやあ、私も三笘さんともう少し早く出会って、そのことを教わりたかった(笑)。

一人のミスは、チーム全員でカバー

井上:しつこくて申し訳ありませんが、「三笘の1ミリ」、あのシーンで私は、三笘さんの「パスをなんとしても繋ぐんだ」という執念を見た思いがいたしました。三笘さんご自身はあの場面、振り返るとどのように捉えていますでしょうか?

三笘:あの場面、僕自身があれだけ高い位置まで走り込めたのは「勝ちたい」というチーム全体の気持ちが、僕の背中を押してくれていたからだと思います。そして、その後の田中碧選手のゴールは、僕だけでなく、いろんな人の思いや技術が繋がった結果です。やっぱり、サッカーは一人ではできません。チーム全員が仲間のために動くのがサッカー。そして、サッカーというのは、とてもミスが多いスポーツなんです。ミスを皆で補い合って、得点や勝利という最良の結果に繋げていくんです。

井上:ということは皆さん、誰かがミスすることを前提に、試合に臨んでいるんですか?

三笘:もちろん、ミスはないほうがいいし、そのために日々、練習もしています。でも、ミスは起こるものと考え、リスク管理もしていますし、誰かのミスが出てしまったとき、チームとしてどう動けるか、そこがとても重要だと思います。

井上:航空業界の安全に対する考え方と相通じるものがありますね。人間ですから、ミスは否が応でもあるもの。それを前提に、それでも安全運航を遂行する。それが鉄則ですから。

三笘:ホントですね。とてもよく似てますね。

井上:それにしても、世界を驚かせたあのプレー、反響も大きかったと思いますが、ご自身はどう受け止めていますか?

三笘:あのシーンが、注目を集めていたのは知っていました。でも、僕自身は次の試合に向けて気持ちを切り替えなければならなかったので、大会期間中はさほど気にも留めませんでした。それでも、ワールドカップが終わって、あの場面が、スポーツメディアはもちろん、それ以外にも波及していたのを見て、「やって良かったな」と素直に嬉しかった。大きな舞台で、あのプレーができたというのは、自分が積み上げてきたものが、少しは出せたんじゃないかと、すごく誇らしく思いました。

井上:あれは昨年の12月でしたよね。私どもANAはちょうどその時期、「業績はいったいどうなるのか」とヤキモキするような、昨年度の最終コーナーに入ったところ。そこで、三笘さんのプレーを目の当たりにして、勇気をいただいたんです。「最後まで粘るぞ、頑張るぞ!」と。

三笘:本当だとしたら、とても光栄です。

井上:本当、これは事実です。結果、弊社は昨年度、パンデミックを経て、3年ぶりに黒字を達成することができた。ですから、全社員を代表して感謝申し上げたいんです。ありがとうございました。これからもANAは、三笘さんとご一緒に、さらなる高みを目指し、頑張ってまいりたい、そう思っています。

三笘:ありがとうございます、私も頑張ります。

撮影:加治屋誠
取材・文:仲本剛

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