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「もったいない」精神で発案 2時間で完売のアップサイクルグッズ~翼の流儀

「もったいない」精神で発案 2時間で完売のアップサイクルグッズ~翼の流儀

ANA REPORT 翼の流儀

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「きっかけは、私たち整備士が着るツナギ、作業着の多くが、廃棄されていたこと。以前からずっと、気になっていたんです。ひどく汚れたり、破けたりしてしまうのは、主に腕や脚のところで、胴体のところはそれほどでもない。その部分の布地を、なんとか活用できないかと考えたんです」

男性はこう言いながら、自らが纏っている作業着の、胸のところの布地を摘んでみせた。

「ANA Future Promise」というスローガンのもと、グループ一丸となって、持続可能な社会の実現を目指しているANA。そこで、今回の「翼の流儀」では、ANAのESG(Environment=環境・Social=社会・Governance=ガバナンス)経営を「アップサイクル」で牽引する二人を紹介する。アップサイクルとは本来、捨てられるはずの廃棄物に、新たな付加価値を持たせ、別の新しい製品にアップグレードして蘇らせることだ。

一人は冒頭のコメントの主、整備士で、ANA整備センター機体事業室機体技術部のマネージャーを務める高橋秀弥。

そして、もう一人はANAビジネスソリューションのBPOサービス部で、現在は主にマイルの管理などの業務に就いている照沼有紀子。

世代はもちろん、社歴もグループ内での〝本業〟もまったく異なる二人。だが、アップサイクルに至る道程の原点にあったのは、それぞれの母が教えた「もったいない」の精神だった。

「会社や社会に恩返しがしたかった」

「地方の大学出身なので、当時から飛行機はよく使っていました。出発の際、空港で飛行機に向かって手を振ってくれる整備士たちを見て憧れたのが、いまの仕事を志望した動機です」

1992年、ANAに入社した高橋。以来30年余、ずっと整備の仕事に携わってきた。

「入社7年目の海外研修後からは、技術部門のスタッフ業務を任されました。スタッフ業務というのは、機体やエンジンのメーカーから教えられる、さまざまな整備の方法や修理のやり方を、わかりやすい形にして、手順を作る仕事。その手順を現場に伝え、実際の整備に活かしてもらう。いわば安全運航の根幹を担う仕事です」

こう言って、胸を張る高橋。なかでも「印象深かった」と語るのが30代前半、「ジャンボ」の愛称で知られたボーイング747の、世界で最初の改修作業に携わったこと。

「翼にエンジンを取り付けている部分、その強化を目指した改修作業です。もちろん、機体を製造するのは飛行機メーカーですが、エアラインの現場で、運航している機体がどう劣化していくのかをもっとも知っているのは私たちですから。来日したボーイング社のアメリカ人技術者と一緒になって、半年近く苦労を重ねました」

高橋らが辿り着いた改修方法はその後、ボーイング社を通じて世界中の航空会社にフィードバックされることになった。

「パッと見ただけではわかりにくいんですが、改修を終えた機体には、エンジン上部に赤い線が入れられていて。アメリカに遊びに行った際、現地の空港で、よその航空会社の747にその赤い線を見つけたときは、なんとなくですけど、誇らしかったですね(笑)」

一途に整備の仕事に打ち込んできた。だが、50歳という大きな人生の節目が迫るなか、心境に変化があったという。

「あれは自分が48歳のころだったと思います。50歳になったら、これまでとは違うことに挑戦してみたいという思いと、なにより、ここまで育ててくれた会社や社会に恩返しをしたいという気持ちが強くなっていたんです」

そんなとき、目にとまったのが、冒頭で触れた、着古された作業着の山だった。高橋は廃棄処分に回されるその山から、会社に断りを入れ一着を拝借することに。このとき、頭の隅にあったのは、幼いころの母との思い出だった。

「私の母親は裁縫が得意で、小学生のころなど、着なくなったシャツなどを『もったいない』とリメイクして、レッスンバッグを作ってくれたりしました。それを思い出して、廃棄される予定の作業着を母に送って頼んだんです。『これで、なにか作ってみて』と」

2ヶ月後。当時すでに70代後半になっていた高橋の母が手作業で作り上げたのが現在、人気を博している「アップサイクルバッグ」の原型ともいえるカバンだった。2018年のことだ。

「『これ、すごくいい』と告げると、母は『でも、大変よ』と(苦笑)。生地がすごくしっかりしているので、裁断するだけでもひと苦労だったようで。ミシンも2回、壊れたそうです」

すぐ、高橋は事業化に向けて動いた。社内の提案制度に応募し、試行錯誤の末、トートバッグ専門ブランド「ROOTOTE(ルートート)」の協力も得た。ここで気になったのが、製品の価格だった。材料となる作業着の古着は一着ずつ大きさも違えば、それぞれ生地の傷み具合も異なる。そのため、解体、型取り、縫製のすべてを職人の手作業に委ねざるを得ないからだ。

「製作コストがかかるので、販売価格を安く抑えることはできません。もちろん作業着は徹底的に洗濯したものをアップサイクルしていますが、それでも、色褪せや修復跡といった〝汚れ〟は残る。『果たして、そんなものをこの値段で買っていただけるのか』と最初は不安もありました。一方、徐々に私と同じ仲間である整備士たちが私の提案に興味を持ち、協力して頂けるようになりました。そして、私の不安だった”汚れ”について、整備士たちと話をして一気に考えが変わったんです。一つひとつの汚れは飛行機を安全に飛ばすために付いたもの、汚れているほど価値があるカバンなんだ、と。だから、キャッチコピーは『汚れた分だけ、翼は輝く!』としたんです」

こうして2021年、高橋が考案した「ANAオリジナル作業着アップサイクルバッグ」が完成。まずはクラウドファンディングでの販売を開始した。価格は小さなトートバックで1万5000円とした。

一つずつ手作業で仕立て上げた

「高橋さんのお母様同様、私の母も針仕事が得意で、ニットの服にあいた穴などは、すぐ繕ってくれましたし、着なくなったセーターなどはいったん毛糸をすべてほどいて、カーディガンに編み直してくれたりもしてました」

こう話す照沼が、先述のANAビジネスソリューションに入社したのは2008年のこと。

「もともと旅行が好きで。それに、飛行機っていいな、と思っていたので、入社しました。7年ほど、コールセンター業務にてさまざまなキャンペーンやイベントで、お客様からのお問い合わせを受ける窓口などをしていました。その後は、ANAセールス(現・ANAあきんど)の法人販売部に3年ほど出向も経験しました」

照沼がアップサイクルの事業に携わるようになった契機は、コロナ禍だった。

「2020年から始まったパンデミックで、航空業界全体が大打撃を受けた中、ANAでは『現場でなにかできることはないか?』というボトムアップの機運が高まりました。グループ全体として社員による新規事業提案制度が充実していき、その機運が高まっていく中で私も『これ、少し形を変えたら、お客様にもっと喜ばれるものができるんじゃないかな』といったことを、常に考えるようになっていったんです」

まず、照沼が最初に関わったのは2021年、羽田空港に駐機中の飛行機の座席で、食事を楽しんでもらう『翼のレストランHANEDA』という機内レストランの企画だった。

「その後、新しい事業を考える社員のコミュニティのなかで、客室のシートカバーが廃棄されているということを聞いて。そこで出会った整備士の方と『有効活用できるのでは』と話し合って、二人で共同提案したんです」

2022年、照沼たちは「せっかくなら日常的に使えて、愛着を持ってもらえるものに」と、シートカバーをルームシューズにアップサイクルすることを発案。

通常、シートカバーは汚れたり、クリーニングが一定の回数を超えたものから定期的に交換していて、従来は1ヶ月間におよそ数千枚が廃棄されてきた。このうち、汚れやキズの少ない生地数百枚ほどを選び出して、スリッパの生産量が日本一多い山形県の工場に持ち込み、職人が特性を活かしながら一つずつ手作業でルームシューズに仕立て上げることに。

「高橋さんが考案したカバンもそうだったように、私たちも価格設定には悩みました。ただ、補修もできて長くお使いいただけるという商品のセールスポイントや、私たちのプロジェクト『Newがっつり広場』の名のとおり、しっかり稼ぐというコンセプトのもと、売上も確保しながらお客様に新しい提案をするということで、一足6930円で売り出すことになりました」

昨年11月、販売を開始したルームシューズ。その第1弾、50足の販売に対し、2500件以上の申し込みが殺到するなど、大いに注目を集めた。

「あくまでアップサイクル商品ですから、製造・販売数に限りがあるので。今後も、シートカバーの廃棄数を確認しながら販売を継続していきたいと思います」

いっぽう、作業着をリメイクしたバッグも大好評。高橋は言う。

「一昨年の最初のクラウドファンディングでは200個がわずか2時間で完売しました。おかげさまでその後も人気は継続していて、販売再開、即完売という状態が続いています」

高橋も照沼も、次のアップサイクル商品を画策中だ。

「飛行機の誘導やプッシュバック、貨物コンテナの搭降載など、空港の駐機スポットで仕事をしているグランドハンドリングの人たちの制服をいま、狙ってます(笑)。整備士のツナギより、少し生地が柔らかいんですが、その特性を活かして、なにが作れるのかをいま、考えています」

高橋の言葉を頷きながら聞いていた照沼は、こう言葉を継いだ。

「私としては、ルームシューズの型を抜いたあとに残った端切れ生地を、もっともっと活用できないか、思案中です」

そして、取材の最後。照沼はこう言って嬉しそうに笑うのだ。

「このプロジェクトに関われたことで、スキルはもちろんですが、ものの見方も大きく変わることとなり、成長できました。うん、私自身がアップサイクルできたんだと、そう思っているんです」

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※ ANAアップサイクルプロジェクトはANAウィングフェローズ・ヴイ王子にて運営しています。

撮影/加治屋誠 取材・文/仲本剛